わかってるくせにハルは気づかないフリをする。
達也くんに想われてること。
達也くんに愛されてること。
そんな達也くんを好きなこと。
全部ないことにした先に何があるのか、それだけはほんとにわからないまま、こいつはずっと逃げ続ける。
ハルに進んでほしい。あとたった一歩ハルが踏み出せれば、そしたら……
それなのにハルは答えを出さなかった。達也くんの気持ちは嘘か気の迷い程度のもので、だから自分が彼を好きかどうかなんてどうでもいい。諦観と自虐と少しの期待が混ざった瞳でハルはそう言った。
そんなの逃げてるだけなのに、ほんとは達也くんが本気だってわかってるくせに、何を言ってもハルは達也くんの手を振り払う。
動こうとしないハルへの苛立ちと、何もできない自分へのもどかしさと、俺にはできないことができる達也くんへの悔しさとでぐちゃぐちゃの心が、俺の口を開かせた。
ハルを助けられるのは達也くんだけだ。
わかってる、だから達也くんに任せるって言ったんだ。だけど俺だってハルを助けたい。助ける手伝いくらいはしたい。
こんな嘘ついて意味があるのか。ほんとにこの先を言ってもいいのか。ハルが自分から動くのを待たなくていいのか。迷ったけど、決めたんだ。何度もハルを諦めようとした。そのたびに一人でハルを支える達也くんを見た。もう何もできないのは嫌だ。
ハルのヒーローは間違いなく達也くんだ。でも、ハルの相棒は、俺なんだ。ハルが怖くて動けないなら、俺がむりやりにでも背中を押す。
ハルが掠れた声を出した。
戸惑い、気づかないフリを続けるハルに訴える。
ハルに胸ぐらを掴まれた。殴られるのかと思ったけど、ハルは力なく俺の胸に倒れ込むだけだった。
ぼろぼろ泣きながら感情を剥き出しにしてハルが叫ぶ。汚い部分も全部曝け出して。
こんなハル初めて見た。ずっと一緒にいたのに、ハルにもこんな感情があるなんて知らなかった。知ろうともしなかった。
ハルの髪を撫でた。いっぱい傷つけて、どうにもならないほどハルを変えてしまった。だから俺らが、ハルの傷を塞いでやりたいんだ。
言いながら涙が出た。ハルが顔を上げた。涙でグシャグシャの酷い顔だ。でも多分俺も似たようなもんなんだろうな。
ハルの肩を押した。今あるものがずっと手の中にあると思ったら大間違いだ。
泣きながらうなずいて、ハルは駆け出した。
バタンとドアが閉じる音を聞きながら目を擦った。
ハルを助けてあげられるのは俺じゃない。だけど、達也くんの次でもいい、また俺とも笑ってくれるだろうか。
誰もいなくなった部屋で溢れ続ける涙を拭いながら、初めてちゃんとハルと向き合えた気がした。