いきなり抱きついてしまったせいで、達也くんから困惑の声があがった。
達也くんに肩を掴まれ、引き離された。やっぱり迷惑なんだ。もう抱きしめてもらえないんだ。そう思ったけど、達也くんは俺の手を取った。
手を引かれ家に上がった。彼女がいるのにいいのかな。もう俺なんてなんとも思ってないから、そんなこと気にもならないのか。
達也くんに促されソファに腰掛けた。達也くんも俺の隣に座って、それだけでまた悲しくなった。
そう言ったら達也くんは呆れ顔でため息をついた。
理解できなかった。脳がキャパオーバーして、涙を拭うことすら忘れて、そしたら達也くんが濡れた頬を拭ってくれた。
ようやく自分が突っ走りすぎたことに気づいて、顔が熱くなった。ごまかそうと首を振った。
小さく呟かれてはっとした。また太我の言葉を思い出した。
なんであんな嘘ついたのかわからないけど、とにかく告白されたっていうのは太我の嘘で、それならこの気持ちを伝えるのもまだ遅くないってことなんだ。なのに俺は、また逃げようとしたんだ。
達也くんの手を握った。もう逃げないって決めたんだ。
いまさら都合が良すぎるってわかってる。何回も達也くんの気持ちを無下にした。
どこまでも俺は最低だ。今だってまた達也くんから逃げようとしたんだ。それでも許してくれるかな。まだ俺のこと、好きって言ってくれるかな。
達也くんを見た。ずっと一緒にいたのに、久しぶりに見た気がした。
達也くんに抱きしめられた。
何度も塞いだ耳から、達也くんの言葉が染み入る。触れ合っているところから、達也くんの体温が広がる。
おそるおそる達也くんの背中に手を回した。俺を抱きしめる力が強くなった。だから俺も腕に力を込めた。いつももらってばかりで、抱き返したのは初めてだった。
ずっと胸に溜まっていた淀みが晴れていく。
思えば、あの日君が好きって言ってくれたときから、こうなることは全部決まってたんだね。達也くんの胸に縋ってひたすら泣いた。好きと言った。達也くんから注がれる愛情が温かすぎて、いくら泣いても泣き足りなかった。
達也くんが好きって言ってくれる。それだけでいい。ずっとずっと欲しかった言葉を噛み締めながら、達也くんの腕の中で泣き続けた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。