第9話

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2021/03/25 11:32
太我
太我
疲れた
太我の呟きが部屋に響いた。
太我
太我
もう無理なんじゃないの
そう言いたくなっても仕方のないことだった。大好きな人に何もしてあげられない、自分の気持ちが伝わらない。それどころか好意は全部嘘とみなされる。誰だって、返ってこない愛情を注ぎ続けるのはキツい。どれだけ尽くしても何も変わらない毎日に、太我は憔悴しきっていた。
太我
太我
あいつ自身が俺らのこと拒絶してるのに、何したって、
達也
達也
疲れたならやめればいい、俺は諦めない
太我
太我
……ごめん
達也
達也
しょうがねえよ。お前までダメになったら意味ないし、少し休めよ
太我はもう一度「ごめん」と言った。俺に対してなのかハルに対してなのか測りかねた。





達也
達也
ハル、遊び行こうよ
休日は出来るだけハルを遊びに誘った。ハルは誘えばついてきた。好意さえ伝えなければいつものハルなのだ。だから俺も太我もこんなになるまで気づかなかった。
晴人
晴人
え、行く行く
達也
達也
どっか行きたいとこある?
晴人
晴人
俺ね〜久しぶりにバッセン行きたい
達也
達也
じゃあ明日さ、一緒に行こう
翌日、ハルが迎えにきた。
ハルが運転する車に乗り込む。シートベルトをかける俺を眺めながら、ハルは不思議そうに言った。
晴人
晴人
最近さ、太我もめっちゃ遊び誘ってくるんだよ。変なの
あんなことを言っておいて、太我もまだハルのことが諦め切れないらしい。
達也
達也
俺らハルが大好きだからな
晴人
晴人
またそれ?しつこいなぁ
達也
達也
ほんとのことだから。俺も太我もハルが
晴人
晴人
もう車出すから黙って
運転中にあの目になったらさすがに危ない気がして、素直に口を閉じた。ハルが車を出し、そのまま車内に沈黙が流れる。
達也
達也
……ハル
晴人
晴人
なに?
達也
達也
俺らはさ、ほんとに……
それ以上言葉が出なかった。ハルの横顔を見つめたが、無性に泣きたくなってすぐ目を逸らした。毎日毎日、時間は進んでるのに俺らだけが止まってるみたいだ。
窓の外を眺めた。景色が流れていく。過ぎていく日々のように、ただ流れていく。

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