太我の呟きが部屋に響いた。
そう言いたくなっても仕方のないことだった。大好きな人に何もしてあげられない、自分の気持ちが伝わらない。それどころか好意は全部嘘とみなされる。誰だって、返ってこない愛情を注ぎ続けるのはキツい。どれだけ尽くしても何も変わらない毎日に、太我は憔悴しきっていた。
太我はもう一度「ごめん」と言った。俺に対してなのかハルに対してなのか測りかねた。
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休日は出来るだけハルを遊びに誘った。ハルは誘えばついてきた。好意さえ伝えなければいつものハルなのだ。だから俺も太我もこんなになるまで気づかなかった。
翌日、ハルが迎えにきた。
ハルが運転する車に乗り込む。シートベルトをかける俺を眺めながら、ハルは不思議そうに言った。
あんなことを言っておいて、太我もまだハルのことが諦め切れないらしい。
運転中にあの目になったらさすがに危ない気がして、素直に口を閉じた。ハルが車を出し、そのまま車内に沈黙が流れる。
それ以上言葉が出なかった。ハルの横顔を見つめたが、無性に泣きたくなってすぐ目を逸らした。毎日毎日、時間は進んでるのに俺らだけが止まってるみたいだ。
窓の外を眺めた。景色が流れていく。過ぎていく日々のように、ただ流れていく。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!