いつのまにか寝ていて、起きたら夜中だった。泣いたせいで目が腫れていた。スマホの電源を入れたら、笑えるくらい着信通知が来ていた。メンバー三人のグループLINEの、撮影日を明後日にズラすという連絡にだけ返事をして、また電源を切った。
なんだかずっとダメダメだ。二人が俺に構いさえしなければこんなことにはならなかったのに。あの日達也くんが、俺に「好き」なんて言わなければ、全部がいつも通りだったはずなのに。
そんなこと考えたってどうにかなるわけでもない。堂々巡りの思考に頭が悲鳴を上げた。とりあえず何か飲もうと思って冷蔵庫を開けたけど何も入っていなかった。
そういえばご飯も食べてない。ため息をついた。コンビニでも行くかと玄関を開けたら、誰かが驚く声が聞こえた。
玄関の前に太我が立っていた。咄嗟にドアを閉めようとしたが、すんでのところで隙間に足を捻じ込まれた。そのままこじ開けようとしてくる。
全力で抵抗するも、寝起きだからあまり力が入らない。普段なら絶対俺の方が強いのに。少しずつ劣勢になり、一瞬力が緩んだ拍子に、太我に飛び込まれた。
太我を避けきれなくてぶつかった。そのまま床に尻もちをつく。勢いづいた太我も俺に倒れかかってきた。俺にのしかかった太我は、肩で息をしながらも俺を強く抱いた。逃げようともがくけど、体勢的に不利すぎて抜け出せない。
そう言ってようやく俺の上からどいた。自由になったけど、あんな脅しの後で逃げる気にもならない。
自分の目が真っ赤なのを忘れていた。慌てて隠そうとしたが腕を掴まれ阻まれた。太我は険しい顔で俺の答えを待っている。でも、なんて答えるのが正解かわからなかった。黙っていたら、結局太我から口を開いた。
俺の腕を引きズンズン部屋へ入っていく。俺の家なのに全く遠慮がない。ソファに座り、我が物顔で「早く座れよ」なんて言ってくる。
図星だった。
もうどうにでもなれと太我の隣に腰を下ろした。
呆れたけど、いつも通りの態度に少しほっとした。今日のことを深く追及されないのもありがたかった。何より、達也くんと違って距離を詰めてこない太我の隣は、けっこう楽だった。
そう言ったら太我に頭を叩かれた。びっくりして太我を見たら変な顔をしていた。
いつのまにか目に涙を溜めた太我は、それをごまかすように目を擦った。
乱暴に頭を撫でられた。俺の髪をぐしゃぐしゃにして太我は立ち上がり、俺を見下ろし、涙目のままニッと笑った。
もう一度笑って、太我は帰った。言われたことの意味がわからないまま、俺は呆然とその背中を見送った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。