第10話

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2021/03/27 03:25
動画撮影の休憩中、ふと太我が立ち上がった。
太我
太我
ちょっと自販機行ってくる
達也
達也
おう
部屋を出ていく背中を見送り、なんとなく隣に座っているハルを見た。無言でスマホをいじっているハルの目が澱んでいることに気づいて、慌ててスマホを取り上げた。
達也
達也
何見てんだ
画面に映っていたのは全く知らない奴のツイートだった。予想通りというかなんというか、やはりツイートの内容は俺らにとってあまりよくないもので、ため息をついた。
達也
達也
エゴサすんなって言っただろ
晴人
晴人
その人ね、ちょっと前までずっと俺らのこと応援するって言ってたんだよ
真っ暗な目のままなげやりに笑う。
晴人
晴人
やっぱりずっとなんてありえないね
達也
達也
俺はずっとハルが好きだけどな
晴人
晴人
なにそれ
ハルがふっと笑った。俺はびっくりしてスマホを取り落としそうになった。「ちょっと」と抗議の声が上がる。
晴人
晴人
俺のスマホ落とさないでよ
達也
達也
あ、ごめん…
ハルにスマホを返しながらその目を見る。さっきまで濁っていた目は、もう元に戻っていた。好意を否定されないのは久しぶりだった。無意識にハルの頭に手が伸びた。
晴人
晴人
え、なに?
達也
達也
いや…
晴人
晴人
ちょっとやめてよ、恥ずかしいよ
達也
達也
ごめん、もうちょっと…
太我
太我
え、何やってんの?
そこに太我が帰ってきた。照れ笑いを浮かべるハルと、ハルの頭を撫でる俺を見て、口をぽかんと開けている。
晴人
晴人
なんか達也くんがおかしいんだよ
達也
達也
ハルが好きなだけだよ
晴人
晴人
ほらなんかキモいんだよ
好きと言われてもなおクスクス笑っているハルを見て、太我もはっとしてハルの頭に手を置いた。
太我
太我
はっ、はる!俺もハルが好きだから!ほんとに!
晴人
晴人
え…何太我まで…ちょっとほんとやめてってば!恥ずかしいよ!
犬みたいにぶるぶる頭を振って俺たちの手を振り払う。
俺と太我は顔を見合わせた。好意を伝えてもなおハルが笑っているのが嬉しかった。例え否定しないだけで、俺たちの言葉を信じてはいなかったとしても、それでも報われた気持ちになった。
達也
達也
ハル
晴人
晴人
なに?
達也
達也
俺らは何があってもお前の味方だから
晴人
晴人
はぁ?
達也
達也
だから辛いことがあったら言えよ
晴人
晴人
………
達也
達也
辛かったら言え、絶対
ハルは何も言わなかったが、それでも良かった。ハルとちゃんと目が合っていて、俺の言葉を聞いてくれているなら、返事なんかいらない。
ハルの手を握った。困ったような顔で見返されたが、それでも離さなかった。ハルがどこにも行かないように、キツく握りしめた。





ハルが俺たちの好意を受け入れた。
いや、まだ受け入れたわけではないのかもしれない。それでも、ハルのあの笑顔は、俺たちに希望を与えた。
太我
太我
なんか知んないけど、久しぶりにハルの笑った顔見た気がしたわ
ハルが帰ったあと、太我が嬉しそうに言った。俺も嬉しかったし、太我の気持ちもよくわかった。ハルはいつもニコニコしているのに、動画の中でだってラジオ収録のときだってあんなに笑っているのに、ハルの本物の笑顔は久々な気がしてしまうのだ。別に普段のハルが無理して笑っているとか、そういうふうに感じるわけではない。ただなぜか、久しぶりだと思ってしまった。
達也
達也
(諦めなくて良かった)
この調子なら、ハルは自分の気持ちをもっと打ち明けてくれるかもしれない。そしたら今よりもちゃんとあいつと向き合える。
太我
太我
にしてもさ…ハルもこんなに思い詰めることあるんだね
達也
達也
……俺もずっと考えてた
太我
太我
あいつさ、鈍感ていうかマイペースってか…あんま気にしないタイプじゃん。だから意外だったなー…
達也
達也
うん。でももしかしたら、辛いのを表に出さなかっただけなのかもな…
二人して神妙な面持ちになってしまう。
こうなる前から、ハルはあまり自分の悩みを話さないタイプだった。というか、悩んでいるという素振りを見せなかった。それに怒らない。いつも笑みを浮かべていた。俺たちの中でいつしか、矢野晴人とはそういう人間だというイメージが定着してしまっていた。仲間として、もっとちゃんと気にかけてやらなきゃいけなかった。
太我
太我
ハルがさー元気になっても、気持ちとかちゃんと言わなきゃなって最近思うんだよ
太我の言葉にうなずいた。一体何回「もっと早く告白すればよかった」って後悔しただろう。すぐ伝えなきゃダメなんだ。言わなきゃわからない。わからないから、ハルは傷ついたんだ。
正直なんてバカなことで悩んでいるんだと思う。嫌われるかもしれないなんて、俺らがハルを嫌うわけないのに。だけどハルは俺らが思う以上に人からの好意に疎いんだろう。なら俺だって何回でも好きと言う。何回でも抱きしめる。
もう二度と、遅かったって後悔しないように。

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