「いってらっしゃい。深澤さん」
辰哉「ありがとう」
ポンポンと頭を撫でられ
深澤さんを見送った
玄関のドアが閉まると私は脱力した
夜の9時まで何をしよう
どう抜け出そう
頭の中はそんなことばっかり
まず、夜は家族みんなそろうから
みんなが学校から帰ってくる前に家を出なくては
でもこの家から出られるのか
いや、出なければいけない
震える足を叩いて無理やり立ち上がり
制服に袖を通した
鞄を持ってポケットに携帯を入れ
学校に行くというていで外に出た
ママ「あなたちゃん?」
「あ、樹くんのママ。こんにちは」
ママ「学校行くの?誰か付き添い」
「大丈夫ですよ。今までも大丈夫でしたから」
そう言って樹くんのママに微笑むと
樹くんのママは悲しそうな顔をして
私の肩を掴んだ
ママ「何かあってからじゃ助けられないでしょ」
そう力強く言われると
何も言えなくなる
でもマンズ兄さんたちはみんな学校だ
「今までも大丈夫だったから、今回もきっと大丈夫です」
ママ「でも、」
「樹くんママ、いつもありがとう」
そう言って抱きつけば
樹くんのママは何も言えなくなる
その隙に
「いってきます」
と大きな玄関を出た
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!