第6話

Chapter 1
965
2019/06/05 07:27
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一瞬の出来事で 、何が起こっているのか理解することが出来なくて 、ピシッと固まる 。
思考が停止寸前 ⋯ 。
そんな状態だって言うのに 、気づいたら口の中いっぱいに 、いちごの味が広がっていた 。
風磨 「 ⋯ どう ? 甘いでしょ 」
自分の唇をペロッと舐めながら 、そんなことを平然と聞いてくる風磨くん 。
甘いとか 、味の感想なんて今はどうだっていい 。
それよりも 、あっさりとファーストキスを奪われた方が重大だ 。
『 な 、何するの ⋯ っ!! 』
思いっきり風磨くんの身体を押し返して 、唇を擦った 。
風磨 「 何って味見? 」
『 あ 、ありえない!!最低!! 』
好きでもない相手に 、こんなあっさりキスをされてしまうなんて 。
風磨 「 もしかして 、キス初めてだったとか? 」
『 ⋯⋯ なっ! 』
そのバカにしたような顔で聞くのやめてよ!
絶対 、心の中で笑っているに違いない 。
風磨 「 へー 、初めてなんだ? 」
『 う 、うるさい!!もう二度と私に近づいてこないで! 』
私がそういうと 、相変わらず余裕そうな表情は崩されないまま 。
風磨 「 二度と近づかないのは無理かもね 」
フッと笑いながら 、付け足しで 、
風磨 「 どうせ 、これから全部もらう予定なのに 」
と 、意味深な言葉を囁く 。
『 い 、意味わかんない ⋯⋯!いいから 、さっさとここから出ていってよ! 』
風磨 「 あーあ 、怒らせちゃった? 」
これで怒らない人がいるんだったら 、連れてきて欲しいくらい 。
少なくとも私は 、ファーストキスを簡単に奪った人を許せるほど 、心の広い人間じゃない 。
風磨 「 んじゃ 、今日は帰るよ 」
ようやく 、私から離れて 、図書室を出ていこうとしたかと思えば 、足を止めて 、私の方を振り向いて 。
風磨 「 またね 、あなた 」
と言って 、立ち去って行った 。
またね 、ってもう二度と関わるつもりないし 。
というか ⋯⋯ 。
『 な 、なんで私の名前 ⋯⋯ 』
教えたはずもない私の名前を 、風磨くんは知っていた 。
しかも 、あなたって下の名前で言った 。
1年の頃から2年になった今まで 、風磨くんと同じクラスになったことはない 。
だから 、風磨くんが私の下の名前を知っているわけがない 。
─── 菊池風磨 。
出会いは最低で最悪 。
こんな人とまた関わるなんて 、絶対ごめんだって 。
人を馬鹿にして 、デリカシーのないことばかり言ってきて 、おまけにファースキスを奪っていった 、大嫌いな人 。
未だに口の中に残るイチゴ味と 、唇に残る感触を消すために 、再び唇を擦ってから図書委員の仕事に取り掛かった 。
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