第17話

最終章
194
2020/10/30 11:12
ーーーーー4年後ーーーーー
今日は中学校の入学式。
はぁ…疲れた……。早く帰りたいなぁ…。
「優樹ー!」
あ!校門の方からお兄ちゃんの声!!
「お兄ちゃんー!!!疲れたよー…」
思いっきり走ってお兄ちゃんに抱きつく。
「うぉっと…危ねぇ…」
「えへへっ、だって退屈だったんだもん!」
「いやいやあれだけ勉強頑張って受験した中学校なのにそれでいいのかよ…」
私が目と耳が治った時、本当は小学校に行っているはずの年齢だった。
沢山の人から「これから学校に行かすのは無理だ」と言われ続けていた。
それはそうだろう、字も平仮名しか知らず、
喋れない子供が小学校に行けるはずなかったから。
でも私はどうしても行きたかった。
お兄ちゃんと、普通の人と、同じ生活をしたかった。
だから凄く凄く努力して、お兄ちゃんに手伝ってもらったり、言葉もしっかり全部覚えた。話せるし、なんて言ってるかも理解できるようになった。
「頑張ったけど他の人と話すの難しいもん」
「文句言わないで勇気出すんだよ」
そう言ってお兄ちゃんはニカっと笑う。
お兄ちゃんの笑顔…好きだなぁ…。
「うーん…明日から頑張るよ」
「まぁ、無理せず頑張れよ」
「わかってるよ!それよりお兄ちゃんは
 今日誕生日でしょ?大人になったんだよね!20歳だから!」
「別に特別なことでもないと思うけど…
 まぁ、お酒飲めたり免許とか取れるな」
お兄ちゃんが大人…かー。遊んでくれなくなっちゃうのかなぁ…。
「そんな寂しそうな顔すんなよ、
 大人になっても何も…ではないか…。
 でもいつもの暮らしと変わらねぇよ」
お兄ちゃんの大きな手のひらが私の頭にのる。いつもの優しくて大きな手。
「あ、お兄ちゃんそう言えば前から聞きたかったことがあるんだけどね!!」
「なんだ?勉強のことか?」
「ううん、違うよ。
 お礼、言いたかったのずっと前から」
「お礼…?俺なんかしたか?」
「うん、私の人生を変えてくれたでしょ?
 何年も私に会ってくれなかった
 ぬいぐるみさん?」
「うっ……はぁ…いつから気付いてたんだよ」
図星…だね、顔に出てるよお兄ちゃん。
「なになに…?私が気づいてないと思ってたの?」
「………俺そんな顔に出る?」
「うーん出る時もあるかなー
 私は顔で気がついたわけじゃないよ?」
「じゃあどうして?」
「フッフーン!教えて差し上げよう!!
 疑い始めたのは、お兄ちゃんに最初会った日で、手のひらに書く感覚がぬいぐるみさんとそっくりだったから少し疑ってたの」
「嘘だろ…?そんな最初から?」
「えへへっ!すごいでしょ!!
それで、確信したのはお兄ちゃんの部屋にクマのぬいぐるみがあったから、すぐわかったよ」
「まぁ、隠してたわけじゃないしいいけど」
「ありがとうねお兄ちゃん…!
 私の人生を変えてくれて」
「……俺は…そんな凄いことしてないよ」
「ううん!私にとっては凄いことなの!!」
「もっと早く助けてやれればよかったんだけどな…」
あ…お兄ちゃん難しい顔してる…。
後悔ってこんな感じなのかな?
「早さとかはどうでもいいの!!!
 もうこの話終わり!ほら早く帰ろ!」
「フフッ…わかったよ、帰ろう
 お母さんが家で待ってるぞ」
「すっごくお腹すいたー!ご飯なんだろね」
「優樹の好きなものじゃないか?」
「え?お兄ちゃんの誕生日でしょ?
 すっごく気になるなー!!」
私は突然お兄ちゃんを置いて駆け出す。
「ほい、捕まえた」
「え!?嘘ー!」
駆け出してすぐお兄ちゃんに腕を掴まれる。
唐突に走れば追いつかれないと思ったのに…
「残念だったな、ほら歩いていくぞ」
「ムゥ…」
「わかりやすくほっぺ膨らますなよ」
「私の何がいけないんだ…」
「しょうがない、俺は男だしな」
「それだったら一生勝てないじゃんか…」
「まぁいいんだよ女の子だったら勝たなくても」
「えー…お兄ちゃんに勝ってみたかった」
「いいじゃんか、お前は俺より勝ってるところあるだろ?」
「えー!?どこだろ…」
「どこだろうな探してみなよ。それはそうと
 改めて、入学おめでとう。優樹」
「ありがと!
 お誕生日、成人おめでとう。朝陽にぃ!」

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