第7話

第七話
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2019/03/20 09:00
 鬼ヶ崎が伸びをして、頭を掻く。
鬼ヶ崎
鬼ヶ崎
ほな、さっそく明日にでも本部に――っちょい待て!
 出し抜けに、彼が鋭い声をあげた。その声音は深刻で、場の空気が一瞬にして張りつめたものに変わる。鬼ヶ崎は、なにかのモニターを見ながら続けた。
鬼ヶ崎
鬼ヶ崎
今、そっちにぎょうさん敵の反応が集まっとるぞ! 警戒せぇ!
 それを聞いた朝弥と虹子が、武器の銃をかまえて周囲を見やる。
 釣られて辺りを見た美琴は、公園の街灯の光が届かない闇の中に、うごめくなにかを確認した。

 人間の姿に似た全身墨色のそれが、夜の闇からじりじりと近付いてくる。
 美琴にも見覚えのあるその怪物の数は、今しがた鬼ヶ崎が言った通り、一体ではなかった。
 闇から一体、また一体と、ドゥンケルが姿を現す。
虹子
虹子
ちょっとぉ、ボス~。数が多いんだけどぉ~
鬼ヶ崎
鬼ヶ崎
最近、あいつらいらん知恵つけてきとるからなぁ。退魔師が自分らにとって邪魔な存在っちゅーことに気付いてきとるんよなぁ
美琴
美琴
……つまり?
朝弥
朝弥
退魔師は、あいつらに襲われるリスクが高い……って、ことだね
美琴
美琴
えええ……っ
鬼ヶ崎
鬼ヶ崎
まぁ、集まってきたもんはしゃーないわ。あっちゃん、虹子、二手に分かれて逃げぇや。あいつら退魔師に集まってきよるから、一ヶ所におったら敵が増えるばっかりや。みぃちゃんは、あっちゃんと一緒に行け
美琴
美琴
二手にって……
虹子
虹子
やだぁ~、怖いじゃなぁ~い!
鬼ヶ崎
鬼ヶ崎
お前の心配はしとらん。ワシも今からそっち行くさかい、あっちゃん、みぃちゃんのこと頼むで
朝弥
朝弥
わかりました
 そのやり取りを最後に、虹子の指輪からは光が消えて通信は途絶えた。
 込み上げる不安を抑えきれないまま、美琴は朝弥を見る。
美琴
美琴
せ、先輩、ほんとに大丈夫なんですか……?
 迫ってくる怪物の数は、どう数えても少ないとは言えなかった。
朝弥
朝弥
わからないけど、やれるだけやってみるよ。桃木、これ持ってて
 返した朝弥は、美琴になにかを手渡す。
 見てみると、美琴の手には一丁の拳銃が握られていた。ドゥンケルを倒すための武器である。が、当然、美琴はこんなものを今まで手にしたことはない。
美琴
美琴
えっ、いや、あの! 私、シューティングゲームの経験もなくて! というか、先輩は?
朝弥
朝弥
僕も一丁持ってるから大丈夫。桃木のことは全力で守るつもりだけど、それでも万が一ってこともある。扱いは難しくないから、ただ敵に向かって引き金を引けばいい
美琴
美琴
そんなこと言われても――
朝弥
朝弥
行くよ!
 叫び、朝弥は美琴の手を引いて、虹子とは反対の方向へと走り出す。そんな状況ではないとわかりながらも、美琴は朝弥との触れ合いに胸をときめかせた。
美琴
美琴
あ、あのっ、虹子さんは……
朝弥
朝弥
彼なら大丈夫。僕の三倍は強いから
美琴
美琴
そ、そんなにっ?
朝弥
朝弥
ああ。いざとなったら素手だって敵を倒せるよ。僕ら退魔師のあいだでは【地獄の虹子】の呼び名で親しまれているんだ
 果たして、それは本当に親しんでいるのだろうか。そんなことを考えていると、背後から虹子の声と共に、激しい物音が聞こえた。たしかに心配はなさそうだった。

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