鬼ヶ崎が伸びをして、頭を掻く。
出し抜けに、彼が鋭い声をあげた。その声音は深刻で、場の空気が一瞬にして張りつめたものに変わる。鬼ヶ崎は、なにかのモニターを見ながら続けた。
それを聞いた朝弥と虹子が、武器の銃をかまえて周囲を見やる。
釣られて辺りを見た美琴は、公園の街灯の光が届かない闇の中に、うごめくなにかを確認した。
人間の姿に似た全身墨色のそれが、夜の闇からじりじりと近付いてくる。
美琴にも見覚えのあるその怪物の数は、今しがた鬼ヶ崎が言った通り、一体ではなかった。
闇から一体、また一体と、ドゥンケルが姿を現す。
そのやり取りを最後に、虹子の指輪からは光が消えて通信は途絶えた。
込み上げる不安を抑えきれないまま、美琴は朝弥を見る。
迫ってくる怪物の数は、どう数えても少ないとは言えなかった。
返した朝弥は、美琴になにかを手渡す。
見てみると、美琴の手には一丁の拳銃が握られていた。ドゥンケルを倒すための武器である。が、当然、美琴はこんなものを今まで手にしたことはない。
叫び、朝弥は美琴の手を引いて、虹子とは反対の方向へと走り出す。そんな状況ではないとわかりながらも、美琴は朝弥との触れ合いに胸をときめかせた。
果たして、それは本当に親しんでいるのだろうか。そんなことを考えていると、背後から虹子の声と共に、激しい物音が聞こえた。たしかに心配はなさそうだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。