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2019/03/06

第5話

第五話
 しかし、虹子の語気は依然として明るかった。
虹子
虹子
そう。だから訓練を積めば、みぃちゃんも私達みたいにドゥンケルを倒すことが出来るのよぉ~
朝弥
朝弥
虹子さん
 朝弥が諫めるふうに、虹子を軽く睨む。が、当の虹子はおどけたように眉を持ち上げただけだった。
 美琴はあわてて、ふたりに返答する。
美琴
美琴
そ、そんな……。私なんて、めちゃくちゃ普通の高校生で……勉強だってスポーツだって、特別できるわけじゃないし……
朝弥
朝弥
退魔師の素質は、もっと根本的な部分の問題なんだ。利口でも、運動能力が高くても、素質があるとは限らない。それに……
 そこで言葉を切って、朝弥は言い淀む。彼は虹子を一瞥して続けた。
朝弥
朝弥
虹子さんが都合のいいことしか言わないから、僕から言わせてもらうけど……。退魔師は、いつだって危険と隣り合わせだ。怪我をすることだって、もちろんある。もっと酷い結果になることだって……
 深刻な朝弥の声音に、美琴の心臓がぎくりと強張った気がした。
 虹子が子供のように唇を尖らせて、反論する。
虹子
虹子
……そういうこと言ったら、みぃちゃん私達の仲間になってくれなくなっちゃうじゃない。ただでさえ、退魔師は人数が少ないっていうのに
朝弥
朝弥
嘘ついて勧誘なんて、ただのブラック企業じゃないですか
虹子
虹子
べつに嘘はついてないわよぉ~。それに、私達がついていてあげれば、危険な目に遭う確率だってずっと低くなるんだし
朝弥
朝弥
そういう問題じゃ――
美琴
美琴
あのっ
 会話を遮った美琴に、ふたりがそろって顔を向ける。それに些か気おくれしながら、美琴は訊いた。
美琴
美琴
今……虹子さんが、退魔師は少ないって言ってましたけど……。このまま、その怪物が増え続けたら……どうなるんですか?
朝弥
朝弥
……人間は、確実に減っていくだろうね。自殺や、衝動的な事件に巻き込まれることによって
虹子
虹子
他でもない、自分達人間のマイナスな感情が原因でね
 なんとなく予想していた答えではあったが、ふたりにはっきりと言葉にされたことによって、美琴の胸は苦しさを増した。
 そして思い出すのは、魔法少女に憧れていた幼い頃からの感情である。

 己が退魔師になることによって、なんの長所も特徴もない自分が、誰かの役に立てるかもしれない。それどころか、世界を救う手助けが出来るのかもしれない。それを考えると、美琴の胸中には強い気持ちが湧いた。

 当然、怪物に襲われたときの恐怖を忘れたわけではない。あの本能的な恐怖は、きっといつまでも美琴の胸に刻まれていることだろう。
 だが、恐怖と同時に芽生えるのは、強くなりたいという感情だった。
 美琴は、こぶしを強く握り締める。
美琴
美琴
……私、やりたいです
朝弥
朝弥
……桃木……
美琴
美琴
心配してくれて、ありがとうございます、先輩。でも、私なんかに出来ることがあるなら……私は、やりたいです
 今まで、美琴は誰かの役に立つという経験も、あまりなかった。誰かのちからになりたいという気持ちが強いのも、それが理由なのかもしれない。

 誰かのちからになって、そうして、自分をもっと好きになりたかった。今まで誰の役にも立っていなかった自分を肯定して、好きになってあげたかった。自分に自信を持ちたかった。

 退魔師となり、世界を救う手助けをしながらもそれが出来るということは、たとえ危険が伴うにしても、素敵なことのように感じたのである。
 こんな気持ちで世界をおびやかす敵と向き合うのは、間違っているのかもしれない。美琴の感情は、単なる偽善なのかもしれない。自己満足なのかもしれない。

 しかし、誰かの役に立ちたいと願う気持ちと、自分をもっと好きになりたいという気持ち。その両方をかかえるのは、本当に悪いことなのだろうか。
 自分を好きになりたいと考えてはいけないのだろうか。自分を好きになって、もっと自信を持てるようになりたいと考えてはいけないのだろうか。

 誰かの役に立ちたいという感情に、嘘はない。幼い時分から憧れている魔法少女のように、強い心で悪を砕く姿に憧憬するこの気持ちは、決して嘘ではない。
 ならば、美琴がいだいているこの感情は、必ずしも悪いとは言えないのではないか。