夏が近いからか、あおい若葉で彩られた木々が山の中に立ち並ぶ。
若葉と若葉の重なる上で出来た隙間から、夕暮れの木漏れ日が私と善逸さんの頬と繋いだ手を指す。
(手、手が…/// わ、私、手汗とか、手汗とかっ、だだだだだ大丈夫でしょうかっ?!/////)
善逸さんに触れている掌が熱くなっていく。
私の手を引き続ける善逸さんの背を見ることもままならなくなってしまい、
私の視線は善逸さんの忙しなく動く足元へと送られる。
呼ばれた拍子に顔を上げる。
善逸さんは私には振り返らずに話をしている。
けど、善逸さんの髪が夕暮れに映えて綺麗だった。
一瞬見えた善逸さんの頬や繋いでいる手に幾つも怪我している事から、今日も稽古が辛かった事が伺える。
(怪我してます…きっと今日も本当に疲れているはずなのに、一体どこへ私を連れて行って下さるつもりなのでしょう………?)
(見て欲しい…?)
そう思った瞬間、立ち並ぶ木々が途切れ、一気に夕暮れの光が私達を照らす。
突然の眩しい光に私は一度目を背けて、陽の光の方へ手をかざす。
私と手を繋いだままの善逸さんは、私をゆっくりと善逸さんの前へと誘導する。
森の中からでは見えなかった、鮮やかな青や紫、橙、赤が作り出す雄大な夕暮れの空。
眩しくも美しい、天からの橙の光。
花畑が一面に広がり、白い花弁が自然の光によって見事に染め上げられている。
開けたこの場所からは他の山や麓を見渡せる程の眺めだった。
善逸さんの言葉が最後まで入らないぐらいに、この場所に魅せられてしまった。
私の足は凄まじい早さで花畑な中へと埋もれていく。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!