第31話

影を移動する鬼
26,112
2019/08/31 12:58
あなた

はぁ、はぁ、はぁ…

重い、重すぎる。
濡れた衣服の重さが足枷となって、思うように刀を振れない。

それに濡れっぱなしで体が弱ってきた。

そして何よりも肩口の傷が痛む。


(きついです…ね、)


そろそろ止む頃かと見ていた雨も、今日に限っていつもより長く降り続いている。

月は一向に出てくる気配は無い。
んふんふっ、お前、いいぞ、いい、んふ、んふふふふっふ。
あなた

お前、んふっ、たった1匹だけで、んふふっ、かなりの人の血肉に値する、んふふふふふふふふっ。
あなた

えらくご機嫌ですね。

ご馳走だっ、喜ばない鬼なんかいないよっ、んふふふっ。そう思わないかい、んふ。
あなた

いえ、思った事など1度も無いです。私自身が鬼ではないというのもあって、分からないのだからでしょうけど。

そうかぁ、んふふっ、そうかぁ…んふっ、お前は可哀想な娘だ、んふふ。その容姿で、まだ若い、んふふふ。自由に生きたい、と思うだろうに、、お前のその身体のせいで叶わないとは、んふふふふふふふふふ。
あなた

容姿は関係ないですけど、確かにまだまだ未来に先がある歳だと私も思っていますよ。自由のきかない、こんな身体にも何度も苦悩しましたとも。

私は半身を地面に埋めた目の前の鬼に向かって笑いかける。
あなた

でも、いいんです。今日を生きて、目的を果たす為なら。お菓子を作って、鬼狩りとして人を守り、己の求めるものを手に入れる…それが出来れば別に私は構いません。

『カチャッ』

私は刀の構えを変えた。
真っ直ぐに刀を向けるのではなく、自分の目の前で横に刀の刃をかざす。
あなた

それに、今日死ぬ事はないので。

んふふっ、んふふふふふふふっふふふふっ。
不気味な笑顔と声が地の下へと消えて行った。


(さて、どこまで私がこの鬼の動きがよめるか…それにかかってますね。)


私は大きく細く息を吐く。
それから、目を閉じ、地面から漏れている極僅かな鬼の甘い匂いを辿っていく。

太一さんを逃がした後にこの鬼について分かったのは、影を移動するということ。
つまり、影が無ければ良いという事だ。

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