第71話

お日様の匂いに隠されて
19,692
2019/09/30 10:56


あなた

では、アオイさんは皆さんを縁側の方へ集めていて下さい。これを終えたら、即向かいます。

神崎 アオイ
分かりました。何かあったら必ず呼んで下さいね?
あなた

はい!

アオイさんが調理場を去ると、私は残りの餅と餡子をせっせと包んでいく。

程よく桃色に染まったお餅に、餡子の色が映える。
包んだものに仕上げに桜葉を巻けば、春の風物詩の出来上がりだ。
あなた

流石に自分流の工夫を凝らす事は出来ませんでしたね…けど、我ながら上出来です。

独り言をぽつりと零しながら、予め用意していた小箱に崩れないように、優しく箸を添えながら丁寧に詰めていく。

まるで小箱いっぱいに桃色の花が詰まっている様で、とても可愛らしい。
鬼殺隊士
おい、あの子だろ?『かぐや姫』って…?
鬼殺隊士
ああ。風柱様と一戦交えた女だ、間違いない。
鬼殺隊士
それにしても顔立ちが…
調理場だというのに、廊下からコソコソと声がする。
流石に調理場まで私を見に来るとは思っていなかった。

私はついピタッと箸を止めてしまうと、「はぁ…」と深く息を吐いた。


(気にしない事です、気にしない…)
鬼殺隊士
声掛けに行くか?
鬼殺隊士
いや、やめとけ。また怒られるぞ。
鬼殺隊士
少しぐらい構わないさ。
何が構わないんですか?
鬼殺隊士
!!!
鬼殺隊士
い、いや、何でも…ない…
鬼殺隊士
さ、さぁ、ベッドに戻るか…
コソコソ話が止み、調理場に足を踏み入れたのは炭治郎さんだった。
私の隣に来ると、私の手元を覗き込む。
竈門 炭治郎
わぁ、桜餅だ!
あなた

はい。炭治郎さんは桜餅がお好きですか?

竈門 炭治郎
ああ!
あなた

そうですか、私も大好きですよ!

炭治郎さんは私の顔を見たかと思えば、スンスンと匂いを嗅いだ。
あなた

え、あ、ご、ごめんなさい!お菓子臭いですか?!ごごめんなさいっ。

竈門 炭治郎
…悲しんでる?
あなた

え…

竈門 炭治郎
あなたさんからは今、少し悲しい匂いがする。
(炭治郎さんは…)
竈門 炭治郎
いつもあなたさんからは暖かくて優しいお日様の様な匂いがするから、その中に紛れる匂いが分かりにくい。けど、俺は、
(匂いで感情を)
竈門 炭治郎
あなたさんがどんな気持ちなのか、ちゃんと気づけているよ。
(読めてしまうんですね…)


私は「ふふふ」と笑みを零し、割烹着のリボンを解いた。
丁寧にその場でそれを畳みながら、炭治郎さんの少し悲しげな顔に視線を移す。
あなた

私は弱いですね、身体も心も。

開いている窓から風が吹き込む。
私の髪はその風の流れになびいた。
あなた

どうしても自分に価値がある様に思えないのです。

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