私はふと伊之助さんが湯けむりに興味を示して、興奮していたのを思い出す。
(新鮮な反応がとっても可愛らしかったですねぇ…ふふふっ。)
義勇さんは行き交う人々を見つめたまま、私に尋ねた。
私はその質問に少しだけ笑って応える。
その瞬間、義勇さんはクスッと確かに笑った。
色白の肌に、深い海のような澄んだ目。
立った鼻筋に、キュッと結ばれた口元。
いつも何を考えているのか分からないような、すんっと澄ました表情は、
少しでも緩めばこんなにも…
(とっても…素敵な方なのです…)
人の胸を高鳴らせてしまうものなのか。
私の目は一気に開いて、胸がドキドキと激しく脈を打ち始めた。
口の端がほんの少しだけ上がった義勇さんは、嬉しそうに目を伏せた。
義勇さんの手がゆっくりと伸びてくる。
『ピトッ』
私の右頬に手をぴたっと添えると、義勇さんはまっすぐ私を見つめたまま続けた。
(さ、サラッとこんな…殺し文句をっっ、さ、流石ぎ、義勇さんですっ、、顔色一つ変えな、、いでっ!、!////// し、しかも、い、いつの間にか名前呼びにな、ってます//////////)
指先まで熱くなっている気がした。
でも、義勇さんの手を退かす事は出来なくて、両拳をギュッと強く握っていた。
声がした方を振り返ると、引き戸を開け、暖簾を捲っていた1人の男が居た。
にっこり笑って続ける。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!