第165話

親友という名のご馳走
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2020/06/15 01:35
『カサッ……カサッ……カサッ……』

私の草木を踏む音が林中に響く。

『…カサッ……カサッ……』

足は引き付けられる様にゆっくりと廃れた祠へと進んでいく。



ぼんやりとした意識下、霧がかかっているかの様な視界。

重力に従い、体重を支えるだけの二本の棒のような足。

ぶらんぶらんと歩く度に揺れる、脱力した両腕。

誰かを呼ぶ声も出せなければ、自由に瞬きも出来ない。

想像以上に身体の動きは鈍く、頭中では何も考えられない状態だ。
あなた





私は今、



今宵尋ねて来てくれたのがキミだけなんて…ボクはやっぱり嫌われているのかい?
あなた

ボクはキミをこれ迄のトモダチよりも一等大切にしよう、ずっと…ずっと…



自らが招いた鬼の呪い、血鬼術に…



腹の中で。



かかってしまっている。









『カサッ…』

導かれるままに動かしていた足を止めた私の真正面には、足をぷらぷらと交互に動かしている鬼が祠の屋根の上に座っていた。


瞳の無い真っ赤な目を2つ付け、外ハネが目立つ長い髪。

声は背丈と同様、幼い男の子のものだった。



ただ、

目の前の子どもが人間の子どもではなく、正真正銘の鬼だという事は、

黴臭さが混じった後味の悪い甘い匂いが自然と嗅覚を刺激する度に感じていた。
さぁ、おいで。
両腕を私に向け大きく広げる。
ほら、おいで…ボクの大切なトモダチ…ボクの糧になってこそ、ボクの役に立てる…トモダチはそういうモノだろう?
あなた


『カサッ………カサッ………』

一歩、また一歩と鬼の前へと歩く私を見て、満足気な笑みを浮かべた鬼は「そうだ、それで良いんだよ。」と言う。
あなた

良い子だね、キミは。本当に良い子だよ。
あなた

鬼は両掌で私の頬を包んでしまうと、私の視界全てを鬼の顔で埋めさせた。
名前を教えてごらん。
あなた

つ、く、夜里…あなた……

そう。なら、ボクのトモダチと一緒に遊ぼう。ほら、皆が待ってる。
あなた

黙って頷いた私を見ると、

鬼はヒビの入った目下にぷくりとした涙袋を作り、不敵な笑みを零す。
…ふふっ、ふふふっ、あはははっ!
これであの方に認めて貰える!此奴を食えば、ボクも十二鬼月の仲間入りだ!
あなた

キミしかやって来ないのを見た時は狂いそうになったけど、
あなた

キミはあんな餓鬼共よりもよっぽど価値がある…ボクがこれ迄トモダチになってきた奴らを差し置いて、キミはボクの親友になれる…!
あなた

過去最高の稀血、
あなた

過去最高の親友ごちそうさ…!

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