『カァーー、カァーー、オ使イ、オ使イ、行ッテ来タッスー』
喜んでいるのも束の間で、頭上で声がしたので調理場の窓を開けると、私の鎹烏が窓枠の淵に降りてきた。
『イイッス、イイッス、気ニシナイデ下セェー』
『ダサインス、早ク取リタイデヤンス。姫ノ選ブ物ハ全部ダサイデヤンス。』
独特な口調で話し、私を姫と呼ぶ、私の鎹烏・宇治金時さんの首には小さい風呂敷が巻かれている。
緑の生地に白いつる草、唐草模様の風呂敷だ。
私が宇治金時さんと出会った頃に贈った物だった。
『別ニ要ラナイッス!』
勢いよく否定した宇治金時さんに思わず笑ってしまう。
『了解、オラァキッチリヤルゼッ』
そう言い残した私の鎹烏・宇治金時さんは羽ばたいて行った。
(いつも嫌々言っていますが、風呂敷を外してる所は見た事ないんですよね…)
ふと気づいて、周りを見渡してみれば、伊之助さんの姿は無かった。
が、直後にけたたましい悲鳴が調理場に飛び込んで来た。
『ギャァァァア、何、オ前!離シヤガレ!』
慌てて甘味処を出ると、見事に宇治金時さんを捕まえた伊之助さんがご満悦そうに笑っていた。
『ギャァァァア!』
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それからかなり時間がかかったが、何とか完成する事が出来た。
皿に乗せられた3つのおはぎにゆっくり手を伸ばす、伊之助さん。
私はその様子を見ながら、手ぬぐいで真っ黒になってしまった顔と汗を拭う。
(初めてなのかも知れませんね…気に入って下さればいいなぁ…)
『パクッ』
もぐもぐと口を動かし、ごくんっと1口目を飲み込んだ姿を見届ける。
それからは無言で、一瞬の速さで伊之助さんは3つ共たいらげてしまった。
その様子からして、どうやら嫌いではないらしい。
(な、名前合ってます…初です!!)
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。