第48話

鎹烏 と 初おはぎ
21,768
2019/09/14 22:29
『カァーー、カァーー、オ使イ、オ使イ、行ッテ来タッスー』


喜んでいるのも束の間で、頭上で声がしたので調理場の窓を開けると、私の鎹烏が窓枠の淵に降りてきた。
あなた

お疲れ様です、宇治金時さん。

『イイッス、イイッス、気ニシナイデ下セェー』
あなた

頼んだ物はその風呂敷の中にあるんですね?

『ダサインス、早ク取リタイデヤンス。姫ノ選ブ物ハ全部ダサイデヤンス。』


独特な口調で話し、私を姫と呼ぶ、私の鎹烏・宇治金時さんの首には小さい風呂敷が巻かれている。
緑の生地に白いつる草、唐草模様の風呂敷だ。
私が宇治金時さんと出会った頃に贈った物だった。
あなた

それは申し訳ないです。今度、別の風呂敷を贈ります。

『別ニ要ラナイッス!』


勢いよく否定した宇治金時さんに思わず笑ってしまう。
あなた

では、それを太一さんの元へお願い出来ますか?

『了解、オラァキッチリヤルゼッ』


そう言い残した私の鎹烏・宇治金時さんは羽ばたいて行った。


(いつも嫌々言っていますが、風呂敷を外してる所は見た事ないんですよね…)


ふと気づいて、周りを見渡してみれば、伊之助さんの姿は無かった。

が、直後にけたたましい悲鳴が調理場に飛び込んで来た。


『ギャァァァア、何、オ前!離シヤガレ!』
嘴平 伊之助
ははははっ!
慌てて甘味処を出ると、見事に宇治金時さんを捕まえた伊之助さんがご満悦そうに笑っていた。
嘴平 伊之助
飯だ!朝飯だ!ぐははははっ。
『ギャァァァア!』
あなた

い、伊之助さん!!






それからかなり時間がかかったが、何とか完成する事が出来た。
あなた

出来上がりです!

嘴平 伊之助
おい、甘い匂いがあちこちですんぞ。
あなた

餡子の匂いですね。

嘴平 伊之助
あんこ?
あなた

はい、食べますか?伊之助さんの分も少し作ったんです。朝ご飯も食べずにおはぎというのは嫌かもしれませんが…

皿に乗せられた3つのおはぎにゆっくり手を伸ばす、伊之助さん。
私はその様子を見ながら、手ぬぐいで真っ黒になってしまった顔と汗を拭う。


(初めてなのかも知れませんね…気に入って下さればいいなぁ…)


『パクッ』
嘴平 伊之助
もぐもぐと口を動かし、ごくんっと1口目を飲み込んだ姿を見届ける。
それからは無言で、一瞬の速さで伊之助さんは3つ共たいらげてしまった。

その様子からして、どうやら嫌いではないらしい。
嘴平 伊之助
おい、月夜里!
あなた

は、はい!

(な、名前合ってます…初です!!)
嘴平 伊之助
お前、柱に会った事あんのか?

プリ小説オーディオドラマ