第62話

抗う
21,163
2019/09/25 09:56
キリキリと痛む耳に触れると、血が出ていた。
先程の風柱様の恐ろしい疾風のせいだ。
あなた

わ、私はか、風柱様の言う通り、刀の握り方も構え方も祖父の趣味を見様見真似でお、覚えた、だけ、なんです…

鬼殺隊士
…嘘、だろ…
鬼殺隊士
でも、確かに動きが妙だった。そういう戦い方だと思ったのだが、風柱様の言う通りだ。構え方や太刀筋が異常に甘い。
本当だ。習った事など1度もない。
しかし、趣味といっても、剣道の道では祖父はかなり名を馳せたと聞く。
祖父は私に竹刀や木刀など握らせたくはなかったらしく、私が見ているのにもあまり良い顔はしてくれなかった。
あなた

そ、れに、私は今、呼吸が使えない事情がある、のです…

纏めた髪がだんだん崩れていく。
風柱様の目がとにかく怖い。
不死川 実弥
使えない、だとォ…?
あなた

(ビクッ)

一気に低くなった声に背中に寒気が走る。

怖い。

それまで軽く下を向いていた風柱様の顔が上がり、私を直視した。
その目は水柱様の名前が出た時よりも血走っている。
あなた

…っ、、、っ、

不死川 実弥
そうかよ、呼吸を使わなくても俺に勝てるって言うんだな。
あなた

っ、そ、そんな事は滅相も

不死川 実弥
もういい。テメェが見せるまで俺が相手してやる!
あなた

待っ

その瞬間、恐ろしい速度で私を目掛けて飛んでくると、刀を一気に振り下ろす。
それを避ける事しか出来ない私に、次はまさかの右の突きがくる。

拳を受け止める術など知らない、ましてや男の人の拳だ。
力も人より弱く、月からの助けも借りられない私は諸に横腹に受けかける。
私は出来る力で風柱様の足元を払ったが、当然払える訳もなく、
あなた

っ!

横腹に掠るという度合いの物ではないが、受けてしまった。

それでも、お腹に直撃しなくて良かったものだった。

だけど、痛くて、痛くて…体も重いし、何か食べたい。空腹で吐きそうになってきた。
不死川 実弥
使えよ、テメェの呼吸。
あなた

実は先程風柱様を払おうとした足を挫いていた。
足に力が入らない。

怖くて、痛くて、もう踏み出す事も出来ない。
不死川 実弥
『スタッ…スタッ…スタッ…』

風柱様が私の方に歩いてくると、私の前で止まった。
私はその様子を見る事は出来なかった。
視界の上部から風柱様の足元が現れる。


私は自ら足の力を抜き、片膝をつく。



私には "今" 、『呼吸』は使えない。
使えないのに風柱様に満足して貰うなんて絶対に出来ない。
私の力なんかでは、剣術も素人に等しい私なんかでは太刀打ちなど出来ない。
そもそも私が周りの隊士の相手を済ませれば、休憩を彼らに与えるという話だったのに聞いて貰えてない。


(こんなの…無理です、どうしろって言うんですか…)





駄目だ、


無理だ、


出来ない、


やめたい、


逃げたい、


怖い。





でも、何故か、









こういう時こそ、最後まで私の身体は抗う。

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