少し困ってしまったが、一瞬見せるだけでいいなら、
いや、そもそもお面を外さず挨拶をしたのが悪い。
外した後、すぐに付け直せばいい。
それに…
(三郎さんを今離す訳にはいかない理由が出来てしまいました。)
『スルスルスル…』
私は面の結び目を解き、狐の反面を取った。
(やはりこの反応ですね。どなたも同じ反応をするのが少し不思議に思えます。)
私は少しだけ表情に苦笑いを混ぜて、顔を傾けた。
そして、私はお面を外したまま三郎さんの両手を取り、ずずいっと顔を近づける。
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今宵は30年に1度の伝統ある最も大きなお祭りが、この村で行われるらしい。
村の豊作と安泰を願い、土地神様に叶えて貰う為に供え物をしたり、舞を踊ったりするという。
三郎さんが言うには、その口承が祭りの中には強く根付いている様だ。
だから、どちらかと言えば、舞や供え物はともかく、祝言や婚礼の儀を進めるのに忙しいのだ、と言う。
三郎さんは向こう側に走って行くと、振り向いて大きく手を振った。
私も手を振り返す。
私は解いた紐が垂れ下がるお面を両手で優しく持ちながら、義勇さんの方に顔を向けた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。