刃から霧状のような帯が辺り一面に広がり、覆っていく。
甘くて、甘くて、甘い。
匂いは強いのに濃すぎず、ほんわりと鼻を通る。
薄桃色を元に薄い緑や青、白が混じる霧は、意識をぼんやりさせていく。
眠りや幻覚の世界へと誘われていく事に、かけられた当の本人は気づかない。
欠点は徐々に己の身も蝕まれてしまうこと。
それが、捌ノ型・霞和三盆。
私の視界もぼんやりとした感覚に、じわじわと蝕まれていくのが分かった。
(相手側が先に倒れるか…私が先に倒れるか…それとも、共倒れになるか…)
が、濃くなる霧を正面突破してきたのは、刀を振って術を切り開く水柱・冨岡義勇さんだった。
衝撃の事態に私の反応は遅れる。
私は即座に彼に背を向けて、逃げようと足を大きく踏み出す。
『ガシッ…』
後ろから抑えられる。
首を締められるように固められて、触れた肩口から激痛が私の身体を駆け抜ける。
もがけばもがくほど、血が二の腕から肘へ、肘から前腕へ、指まで伝っていくのが分かる。
『カタンッタンッ』
徐々にきつく締められていく事により、遂に私は手から刀を離す。
刀が私の身から離れた事により、術が解ける。
霞は驚く速さで晴れ、私の背から蟲柱・胡蝶しのぶが現れる。
『チクッ…』
腹部に刺されたのは注射器だった。
それを認識した途端、一気に身体から力が抜けていく。
水柱様の腕を掴んでいた私の手がストンッと落ちていく。
何も抗えない。
膝から崩れていくのを、水柱様が私を抑え込んだ腕が私を支えている状態にまで陥ってしまう。
水柱様が私を抑え込んでいた腕が離れた時には、私はぼーっとする意識下で仰向けになり、木々の間から見えている空を眺めていた。
私の身体をぐっと持ち上げ、肩に担いだ水柱様。
私の腕はぶらんぶらんと下を向いて揺れている。
下ろせと、離せと、暴れる事も叶わずに、只心の中で叫ぶ事しか出来なかった。
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こんにちは、さくらどろっぷ.です🌸
漸く『霽月の下に』の "起" の部分が終わりました!💪💭
1話1話にいいねを下さる方は勿論、最近はコメントまでくださる方が居らっしゃって、とても嬉しいです😭🙏
励みになります🐗💨
次回からは、いよいよ "承" の部分に入ります!
月夜里さんの前に次々に現れる人達や困難…どう立ち向かい、どう向き合うのか。
これからも母を探し続けようとする彼女の運命や如何に…?!🤭🤭💭
そして、恋柱・甘露寺蜜璃💕、蟲柱・胡蝶しのぶ🦋、月夜里さん🌙の関係性は…??
乞うご期待です!!🌱🙌
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。