第54話

催眠
22,397
2019/09/19 23:02
刃から霧状のような帯が辺り一面に広がり、覆っていく。
甘くて、甘くて、甘い。
匂いは強いのに濃すぎず、ほんわりと鼻を通る。
胡蝶 しのぶ
隊士の方々が皆さんやられた、例の催眠ですね。冨岡さんも気をつけて下さい。
冨岡 義勇
分かっている。
薄桃色を元に薄い緑や青、白が混じる霧は、意識をぼんやりさせていく。
眠りや幻覚の世界へと誘われていく事に、かけられた当の本人は気づかない。

欠点は徐々に己の身も蝕まれてしまうこと。


それが、捌ノ型・霞和三盆。
あなた

っ…

私の視界もぼんやりとした感覚に、じわじわと蝕まれていくのが分かった。


(相手側が先に倒れるか…私が先に倒れるか…それとも、共倒れになるか…)





が、濃くなる霧を正面突破してきたのは、刀を振って術を切り開く水柱・冨岡義勇さんだった。
あなた

な、んで…

衝撃の事態に私の反応は遅れる。

私は即座に彼に背を向けて、逃げようと足を大きく踏み出す。


『ガシッ…』
あなた

っあ!!

後ろから抑えられる。
首を締められるように固められて、触れた肩口から激痛が私の身体を駆け抜ける。
あなた

は、なしてっ、くださっ、い!

もがけばもがくほど、血が二の腕から肘へ、肘から前腕へ、指まで伝っていくのが分かる。
あなた

わた、し、は!

『カタンッタンッ』

徐々にきつく締められていく事により、遂に私は手から刀を離す。
あなた

や、めて、っ!私、は!

冨岡 義勇
胡蝶!
刀が私の身から離れた事により、術が解ける。
霞は驚く速さで晴れ、私の背から蟲柱・胡蝶しのぶが現れる。
胡蝶 しのぶ
少し失礼しますね。
あなた

っ!

『チクッ…』
あなた

?!

腹部に刺されたのは注射器だった。
それを認識した途端、一気に身体から力が抜けていく。
あなた

わ、たし…は、

水柱様の腕を掴んでいた私の手がストンッと落ちていく。
何も抗えない。

膝から崩れていくのを、水柱様が私を抑え込んだ腕が私を支えている状態にまで陥ってしまう。
あなた

わた…し、に、は、

冨岡 義勇
あなた

こ、れしか…

胡蝶 しのぶ
あなた

生き…意…味な…て

水柱様が私を抑え込んでいた腕が離れた時には、私はぼーっとする意識下で仰向けになり、木々の間から見えている空を眺めていた。
冨岡 義勇
胡蝶、
胡蝶 しのぶ
何ですか、冨岡さん?
冨岡 義勇
毒素の強いものは避けろと言ったはずだ。
胡蝶 しのぶ
勿論です。今回、あなたさんに打ったのは兎を眠らせる程度の物ですが、あまりにも効くのが早い…もしかすると…私が調合した薬、飲んでいないのかもしれませんね。
冨岡 義勇
そうか。
私の身体をぐっと持ち上げ、肩に担いだ水柱様。
私の腕はぶらんぶらんと下を向いて揺れている。

下ろせと、離せと、暴れる事も叶わずに、只心の中で叫ぶ事しか出来なかった。
あなた

奪…わ、な…で

冨岡 義勇





✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚

こんにちは、さくらどろっぷ.です🌸



漸く『霽月の下に』の "起" の部分が終わりました!💪💭

1話1話にいいねを下さる方は勿論、最近はコメントまでくださる方が居らっしゃって、とても嬉しいです😭🙏
励みになります🐗💨


次回からは、いよいよ "承" の部分に入ります!


月夜里さんの前に次々に現れる人達や困難…どう立ち向かい、どう向き合うのか。
これからも母を探し続けようとする彼女の運命や如何に…?!🤭🤭💭
そして、恋柱・甘露寺蜜璃💕、蟲柱・胡蝶しのぶ🦋、月夜里さん🌙の関係性は…??



乞うご期待です!!🌱🙌



プリ小説オーディオドラマ