第110話

近づかれたくないだけ?
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2019/11/26 22:05
前田 まさお
前田さんは私に背を向けてしまうと、腕組みをした。
後藤さんは一度私を見てから、静かに息を吐いて私に聞く。
後藤
で、何言いかけてたんですか?
あなた

あ…その…私がこの隊服を選んだ理由を伝えたくて…

後藤
理由?
あなた

はい。私、前田さんに直接ではないですが、よく蝶屋敷の手伝いや調理で水回りに居る事が多いのを伝えて貰ったんです。

後藤
はい。
あなた

あの中で唯一、腕捲りが出来るように仕組みが付いていたんです。そんな小さな事も忘れずに聞いて下さったんだ、本当に誰かの事を想って作ってるんだ、って心が温かくなって…だから、この隊服にしました。

後藤
…だそうですけど?
前田 まさお
前田さんは相変わらず黙りで、何も返してくれなさそうだ。
あなた

な、なので、ご、ごめんなさい。前田さんの気持ちや理想に応えることが出来なくて…ごめんなさい。こ、今度は前田さんの手を煩わせないよう、他の方に頼む事にし

前田 まさお
駄目です、次も私が作ります。
あなた

えっ…

前田 まさお
貴方を他の縫製係に取られるなんて考えたくないですからね、私が作ります。
あなた

い、良いのですか?

前田 まさお
はい。だから、隊服に関しては自分だけを頼って下さい。
私の方を見はしなかったが、前田さんがこれからも引き受けると言ってくださった。


(嬉しいです…)
後藤
では、そろそろ俺達は行きます。
あなた

はい、お気をつけて。

後藤
あの…言いそびれてたんですけど、
あなた

はい?

後藤さんは私の前まで来ると、自分の口元に手を添えて、前田さんには聞こえない様にした。

そして、私に耳打ちする。
後藤
凄く似合ってますよ、綺麗です。
後藤さんの少し大人っぽい低めの声により、頭が一瞬震えた。

不意打ちだ、まさかそんな事を言われるなんて思ってもみなかった。

後藤さんは私から近距離だった顔を離すと、静かに微笑んだ。
後藤
では、明日から頑張って下さい。
あなた

あっ、ありがとうございます…//

頭に上った熱が抜け切れないまま、私は再び頭を下げて、後藤さんと前田さんの姿を見送った。




前田 まさお
…それにしても噂通りの美しさでした。誰が見ても理想に近いような方でしょうね。
後藤
そうですね。
前田 まさお
現在はどなたが蝶屋敷に荷物を?
後藤
俺です。
前田 まさお
なら、時々で良いので私に代わって下さいよ。
後藤
駄目ですよ、あの仕事は胡蝶様に俺が頼まれた仕事ですし。
前田 まさお
こ、胡蝶様…そ、そうですか…
後藤
『かぐや姫』さんに用がある人は全部俺を通して下さい、って他の隠に伝えておいて下さい。
前田 まさお
あぁ…
後藤
それに、貴方が縫製係で自分だけを頼って欲しいと思うように、
俺は隠の中で一番俺を頼って欲しいので。
前田 まさお
…そ、そうなんですね。

(それって只、他の隊士に近づかれたくないだけじゃないか…)

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