尾崎さんと別れた後、私は水柱様と共同任務の現場に向かった。
交通機関を使わずに徒歩で向かうらしく、水柱様はもはや歩きではなく、恐ろしい速さで走り出す。
ついて行くのがやっとだったが、ここ最近の訓練や鍛錬でなんとか遅れを取らずに水柱様の後をきっちりついていけた。
(私にしては上出来です!)
現場近くになると、水柱様は足をゆっくり止め始める。
私もそれに沿い、水柱様の後ろで足を止めた。
相変わらず、無言の時間が過ぎていく。
幾つか山を越えた後だったので、息切れが諸に水柱様に聞こえないよう、鼻で必死に呼吸を補っていると、
水柱様は振り返り、私の様子を横目で伺うと、「そうか。」とだけ私に返した。
再び続く、沈黙の時間。
水柱様は私から視線を外し、前を向くと、また歩き出す。
『ザッザッザッザッ…』
山道を歩く足音や山中の木々の間をすり抜ける風の音がしている。
前進する水柱様が口を開いた。
水柱様が振り返ったのは小さな峠の上だった。
私は真下に広がる、恐ろしい程の盛況ぶりに包まれた村に驚いた。
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『ガヤガヤガヤガヤ…』
(凄い人の数です…それにしても珍しいですね。どちらかと言うと、ここは田舎の筈なのですが…)
店が建ち並ぶ大きな一本通りを水柱様と歩く。
特に話す事もなく、無言でただただひたすらに前へと進んでいく。
(私だけじゃなかったのですね…)
『…辛くないですか?』
夜もすっかり更けた頃だというのに、わざわざ私の部屋に来て、
稽古で負った傷を手当してくれたアオイさんの言葉をふと思い出す。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!