第179話

全て私のもの、全て私の道標
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2021/02/02 06:00

宇治金時さんとの時間を、湯殿町の皆さんとの時間を、鬼殺隊士の皆さんとの時間を、

今出会ったばかりの2人に流されるまま、

私は無かった事にしようとしていた。





ふざけるな。そんな筈がないだろう。





自分の悲壮感や焦りから、相手の責任のない言葉を鵜呑みにしたうえに、
一瞬でも自分に甘すぎる思考を持ってしまった自分を今すぐ消し去ってやりたい。



街に出掛けた、幼き頃のあの日。

祖父母を前に、「母は私のことが嫌いだからいつも一緒に居ないのか」と問うた時に感じた、身体という器諸共、ひっくり返され、中身が空っぽになった感覚。

祖父母に対して、
欲していた返答の言葉とは違った時の " 絶望感 " 、

仕方ないという" 諦め " 、

代わりに祖父母から大切にして貰える、独りじゃなくて良いという謎の " 安堵 " 。


それらは時を重ねる度に具体的に、且つ複雑になっていって。


絶望感は諦めの一部へと徐々に変化し、

その諦めは、宇治金時さんと出会い、過ごす内に、
「いつかは嫌われて離れていく」と心構えをするようになっていった。


結局、中身は変わらず何もないまま。


安堵だけは静かに消え入るように心の底に沈んでいった。





(だけど…、)




優しくしてくれる湯殿町の人々を『守りたい』という強い " 想い " も、


私を純粋に一人の仲間として接してくれる炭治郎、善逸さん、伊之助さんの " 温かさ " も、


沢山の縁と出会い、そして沢山の方々に囲まれ、
私の知らない家族や母親からの愛情を知っている炭治郎に対する " 妬み " 、" 嫉み " も、


蝶屋敷のアオイさんやきよさん、すみさん、なほさんが心配して下さる " 気持ち " も、


風柱様と一戦交えた際だけでなく、義勇さんからの教えをなかなか吸収出来ずに感じた、" 悔しさ " も、


私に大切なものをもう一度手にさせてくれた、しのぶさん達の " 優しさ " も、


炭治郎、善逸さん、伊之助さん、カナヲさんにも遠く及ばないという圧倒的な実力差の狭間で生まれた " 焦り " も、


私のお菓子を『美味しい』と喜んで下さった沢山の人の " 笑顔 " も、


当たり前のように私の隣で注ぎ続けてくれた宇治金時さんの愛情の " 温かさ " も。





決して明るいものばかりでは無かったけれど、

全て私が感じたもの、

私をここまで大きくしたもの。



全てが私の糧となり、私の道標だ。


今更、離してなどやるものか。




祖父母がこの世を去った日に抱いた決意だけを胸に、

祖父母が愛した " 霽月屋 " を閉めた日に…

私は今まで持っていた縁も、関係も、全て捨てて来た。


戻る気なんて微塵もない。

私は絶対に振り返らない。




誰が何と言おうと、私の今の居場所は

鬼殺隊 ここだ。



目的の為に、私は進み続けると誓った。

もう自分自身に甘えはしない。



決して、私は独りでは無かったのだから。




諦めるな、

走れ、

走れなくても前に進め。


例え、足が動かなくたって、腕に枝が刺さったって、唇が痺れて声が出せなくったって、

構わない。

這いつくばってでも進め。


あなた

っぐ、

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