私は片耳の耳飾りに触れる。
私は刀を握る手に力を込める。
炭治郎さんは立ち上がると、背負い箱を手にし、布団の近くに置いた。
そして、背負い箱の扉に向かって優しく話しかけた。
『ゴトゴト…ゴトッ』
何回か背負い箱から物音がして、
『キィ…』
と、木が少し軋む音と共に扉が開く。
ノソノソと四つん這いになって出て来たのは、小さな鬼の女の子だった。
立った直後にぐんぐん大きくなって、私と同い年ぐらいの女の子に変わった。
竹を咥え、長い黒髪は先の方が少し朱色っぽい。
前髪は横に流され、白いリボン調の物で結び纏められている。
薄い桃色の瞳に、まつ毛がピンっと伸びて、鬼特有の長く鋭い爪が見えた。
あまりに驚いてしまったせいで、上手く声が出ない。
この背負い箱から、こんなに可愛く、同い年ぐらいの女の子姿の鬼が出て来るとは思わなかったのだ。
暫く禰豆子さんと目が合う。
すると禰豆子さんはそのまま私の方に歩いて来た。
じっと見つめる禰豆子さんの目に、私は動けなくなってしまう。
(似てます…、炭治郎さんの目と、凄く、似てます…)
私は息をするのも忘れて、禰豆子さんを見つめ続けた。
禰豆子さんはニコッと優しそうな笑みを浮かべると、いきなり私に抱きつく。
『ギュゥ…』
私はどうすれば良いのか分からなくて、すぐさま3人の顔を見る。
既に足を布団から放り出し、大の字になって寝ている伊之助さん。
微笑ましい姿を見たからなのか、和やかな顔をする炭治郎さん。
それから、何故か興奮気味の善逸さん。
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もう夜もかなり遅いので、そろそろ就寝しようという事になった。
禰豆子さんは私を好きになってくれたらしく、私と一緒の布団で寝る事になった。
兄の言う事に頷くと、私の布団の中へ少し幼くなった姿で入った。
(か、可愛いです…わ、私もこんなに可愛くて、べっぴんさんだったら良かったのに…)
禰豆子さんの体温が触れる度に、人肌が寂しかったのか、私の身体がどんどん癒されていく感覚がした。
禰豆子さんは私の顔を見ると、「むっ。」と言って、にっこりとまたその微笑ましい顔を見せる。
私もつられて笑うと、そのまま目を閉じた。
最後の禰豆子さんの顔は少しきょとんとしていた気がする。
(何故でしょう…?私、何か言葉の選択がおかしかったのでしょうか…(汗))
少しすると周りから寝息や鼾が聞こえてきた。
私は相変わらず眠れずに、天井をぼんやりと眺める。
そして、少し、泣きそうになってしまった。
(ごめんなさい、炭治郎さん、善逸さん、伊之助さん、禰豆子さん…)
罪悪感や何か後ろめたい気持ちがあるのか、私の胸は苦しくなってしまった。
(今は、私がこの刀の持ち主を探している事しか話せません…どうか、)
私は瞳を閉じた。
(許して下さい。)
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!