第93話

迷い中
16,335
2019/10/20 21:33
『ドタタタタタタッ、ドタタタタッ、ドタタタタタッ…』

慌ただしく廊下に鳴り響く、単独の足音。
若干汗ばんでいるように感じる、肌。


(ま、まずいです…アオイさんに教えて頂いたのに…前田さんと後藤さんが待っていらっしゃる部屋に着く気配が)


私はその部屋へと向かい始めてから、首を何度も傾げながら走り続けている。


(微塵もしませんっっ…!)
あなた

い、一体、何処なのでしょう…???

先日の隊服の件でしのぶさんとアオイさんに採寸を手伝って貰い、前田さんという方に隊服の制作を後藤さんからお願いして頂いた。


私はアオイさんに言われた通りに、その部屋へと向かっているつもりだった。
けど、着いたのは現在に至る事から当然別所であり、どうやら私はかなり冒頭から方向音痴の力を発揮してしまったようだ。

本当に大きく広い御立派な屋敷なので、まだ入った事のない場所等が多くある。

後藤さんと前田さんが待つ部屋は、その未開拓地の1つだった。
あなた

ど、どうしましょう…

部屋が分からずとも、まず最初の地点には戻りたいのだが、いざ戻ろうとすると更に迷いそうで怖い。

困り果てていると、後ろから「どうされたんですか?」と、声が降ってくる。
あなた

あ、えっと…

振り返ってみると、患者の隊士の方だった。


(患者の方に聞いてみましょうか?…でも、きっとこの方が知らない可能性の方が高いです。もし手を煩わせてしまったりしようものなら、それは申し訳ないです…)
あなた

いえ、大丈夫です。わざわざ声をお掛け下さって、ありがとうございます。

鬼殺隊士
あの、また、迷ってるんですか?
(ドギッ)
あなた

あ、えっと…その…

図星を指されて、軽く心臓が跳ねる。
私は苦笑いを少し見せて、隊士の方に応えた。
あなた

そうなんです…あの、2人組の隠の方を見ませんでしたか?

鬼殺隊士
それならあっちの方の部屋に入っていくのを見ましたけど。
あなた

あちらですか?!

隊士の方が指さす方は、以前にも水柱様の時のように今来た方向だった。


(ま、また反対方向です…)
あなた

あ、ありがとうございますっ!助かりました!

鬼殺隊士
い、いえ…
あなた

では、失礼します。本当にありがとうございました。

私がサッと彼にきびすを返した時だった。

『パシッ』

突如、力強く握られた手首に私は驚いて止まってしまった。
あなた

えっ…と…

鬼殺隊士
す、すみません…あ、あの、場所分かるかなと…その部屋まで送った方が良いのかと思って…

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