『ドタタタタタタッ、ドタタタタッ、ドタタタタタッ…』
慌ただしく廊下に鳴り響く、単独の足音。
若干汗ばんでいるように感じる、肌。
(ま、まずいです…アオイさんに教えて頂いたのに…前田さんと後藤さんが待っていらっしゃる部屋に着く気配が)
私はその部屋へと向かい始めてから、首を何度も傾げながら走り続けている。
(微塵もしませんっっ…!)
先日の隊服の件でしのぶさんとアオイさんに採寸を手伝って貰い、前田さんという方に隊服の制作を後藤さんからお願いして頂いた。
私はアオイさんに言われた通りに、その部屋へと向かっているつもりだった。
けど、着いたのは現在に至る事から当然別所であり、どうやら私はかなり冒頭から方向音痴の力を発揮してしまったようだ。
本当に大きく広い御立派な屋敷なので、まだ入った事のない場所等が多くある。
後藤さんと前田さんが待つ部屋は、その未開拓地の1つだった。
部屋が分からずとも、まず最初の地点には戻りたいのだが、いざ戻ろうとすると更に迷いそうで怖い。
困り果てていると、後ろから「どうされたんですか?」と、声が降ってくる。
振り返ってみると、患者の隊士の方だった。
(患者の方に聞いてみましょうか?…でも、きっとこの方が知らない可能性の方が高いです。もし手を煩わせてしまったりしようものなら、それは申し訳ないです…)
(ドギッ)
図星を指されて、軽く心臓が跳ねる。
私は苦笑いを少し見せて、隊士の方に応えた。
隊士の方が指さす方は、以前にも水柱様の時のように今来た方向だった。
(ま、また反対方向です…)
私がサッと彼にきびすを返した時だった。
『パシッ』
突如、力強く握られた手首に私は驚いて止まってしまった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!