第29話

無能な稀血の鬼殺隊士
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2019/08/31 08:10
あなた

私はこの鬼を狩らなければいけません。いいですか、麓まで走る最中、黒い隊服以外の人間を見ても近寄ってはいけません。いいですか?

太一
だ、駄目だ、俺一人じゃ
あなた

いいえ、行って!行ってください!

私は太一さんの背中をドンッと押すと、太一さんは直ぐに振り返った。
あなた

町で一番走りの速い太一さんなら、すぐに麓に着きますよ。

その言葉に背中を押されたのか、太一さんは大きく腕を振り、大股で一生懸命に走り出した。
1匹、んふふっ、逃した…んふっ。でも、いい、お前が残った、んふふふっ、お前1匹で充分だぁ、んふふふふふっ。
あなた

当たった、んふふっ、爪、当たったね、んふふふふっ、
両手の指を口の中に突っ込み、嬉しそうに喋る鬼。
ダラダラと涎が口から漏れている。
あなた

汚いです。私が今からそんなお口に入るんですか?絶対嫌です。

大丈夫、んふふふふっ、一瞬だけさっ、んふふっ、
あなた

せめて歯磨きだけでもして下さい。

んふっ、いつまでそんな口が叩けるかな、んふんふっ、
あなた

一つだけ質問いいですか?

んふふっ、ふふんっ、
あなた

この耳飾りを何処かで見た事はありませんか?

私は片耳に付いた、藤の花の耳飾りを指さした。
知らないねぇ、んふふふっ、お腹空いちゃった、んふ、
ズブズブと鬼が地面に消えていく。
あなた

そうですか。

『スラッ』

刀を抜いて、空を見上げる。
どんなに探しても月は見えなかった。

抜いた刀の刃は真っ黒な日輪刀で、昨夜の透き通った姿が嘘のようだ。
あなた

そろそろ止んでくれると嬉しいのですけどね…そう、上手くは行きませんよね、何事も。

『シュッ』
んふっ…、
後方から飛び出して来た鬼に対して、私は鬼の方を見ずに背の方に刀の刃を回した。

『キンッ』

回した刀が背で高い音をさせた。




私は月が出なければ、本来の力を発揮出来ない。



つまり、月に左右される私は鬼殺隊士と言えども、


今は無能な稀血の鬼殺隊士だ。

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