彼は先輩隊士方に体を向けると、今度は少し強めの口調で言った。
先輩隊士方からすると、彼の方がどうやら先輩に当たるらしい。
先輩隊士の方々がこの場を立ち去ると、彼は私の顔を伺いながら少し笑った。
少し胸を張った様子を見せる彼に、私はクスッと笑ってしまう。
黙って彼を見ていた伊之助さんに私は問いかける。
唐突の伊之助さんからの言葉に驚きを隠せない。
彼と目が合うと、私は首と手を大きく横に振りながら言葉を添える。
少し高めの彼の声が廊下に響く。
私は彼が笑う姿や声が何故か自分にとって、深く好ましく感じられた。
────鬼殺隊士の村田さん。
私を『かぐや姫』と呼ばない、初めて身近に出来た先輩隊士の名前だ。
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村田さんがたまたま来て下さった事で、何とか伊之助さんと先輩隊士方が衝突せずに済んだ。
村田さんはそう叫び残すと、片手を上げて、何度かこちらを振り返りながら、『タッタッタッタッ』と走って行ってしまった。
(わ、私も早く行かなければ…後藤さんと前田さんが待っていらっしゃいますっ…(汗))
私は伊之助さんの真正面に立ち、猪の被り物の目と目を合す。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!