風柱様が目の前まで来た時、私は足元をずっと眺めていた。
風柱・不死川実弥の影を……見ていた。
刀を持った腕がゆっくり振り上げられるのが分かった。
わざと顔は上げない。
今の私が考えられるのはこれしか無いから。
たった一瞬に賭けよう。
振り下ろす瞬間、私は一気に木刀で斬り上げると、風柱様の木刀に直撃した。
『ガンッ!』
身体を捻り、挫いた足で軸足をとる。
そのまま間合いに出来るだけ入る。
(来ます!)
風柱様の弾いた木刀が、私を横から容赦なく振られる。
痛めた軸足にあるだけの力を込めて、地面を蹴った。
膝を曲げて大きく飛び上がると、風柱様の振った木刀がその下を通過する。
地に足が着いた瞬間、私は痛む片足を再び軸にし、その場で瞬時に回り、
木刀を風柱様の手首へと持っていく、
はずだった。
『ドカッ!』
木刀を持ったまま床に叩きつけられる。
何が起こったのか分からないぐらいの早業だった。
うつ伏せで抑え込まれる。
怖い。怖い。怖い。
失敗してしまった、木刀を弾き飛ばすはずだったのに。
私の腕力で足りないのなら、全身で回ることで生まれる遠心力を足す事で力を賄えると思っていたのだ。
目の端から風柱・不死川実弥の掌が私に向けられて近づいて来るのが見えた。
『パシッ』
私に近づく掌がピタッと止まった。
風柱様の背後から1人の男の人が見える。
周囲の反応が騒がしくなる。
それもそのはずだった。
風柱様の腕を掴み、止めたのは水柱・冨岡義勇さんだった。
(冨岡…義勇、さん…?)
風柱様の腕を掴んで、私から引き剥がしたのは水柱・冨岡義勇さんだった。
御館様の名が出た途端、私にかかっていた力が一気に無くなった。
私は挫いた足がこれ以上痛まないように、気をつけながら立ち上がる。
(あぁ…またからかわれてます。早くお面が欲しいです。私だって分かってますよ、場違いな事ぐらい…でも、しのぶさんや蜜璃さんの様な方が通常だと思わないで欲しいです…)
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!