第100話

胡蝶 しのぶside
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2019/11/10 03:13
柱の立場というものから離れそうになるのを、彼の静かで落ち着いた声が止める。
胡蝶 しのぶ
分かっています。だからこそ、あなたさんが如何なる処罰を受けるまでは、私は私が彼女にしてあげられる事をしたいと思っています。
私がふと顔をあげて彼を見る。

彼はピクリとも口角の一つ、眉のの動き一つ変えた様子もなく、無愛想な表情だった。
胡蝶 しのぶ
少しはニコリとでもしたらどうですか。そんな怖い顔してると、あなたさんにまで嫌われますよ。
冨岡 義勇
…俺を勝手に嫌われている設定にするな。
胡蝶 しのぶ
そうでした、そうでした。冨岡さんは自覚が無いんでしたね。
冨岡 義勇
…俺は嫌われてない。
彼は下向きの視線を動かさず、ずっと突っ立っているだけだった。
そんな彼だからこそ言えるのか、私の口は自然と動いていた。
胡蝶 しのぶ
冨岡さんは鈍いですから気づかない人間かも知れませんけど、あなたさんは貴方と違って繊細な方ですから、
冨岡 義勇
胡蝶 しのぶ
よく様子を見てあげて下さい。
冨岡 義勇
…胡蝶が月夜里 あなたをそこまで想う理由が俺には分からない。何か理由があるのか。
胡蝶 しのぶ
そうですね…強いて言えば、私の継子に似ているから、かも知れません。
冨岡 義勇
…栗花落 カナヲか。
胡蝶 しのぶ
そうです、ちゃんと覚えてらっしゃるんですね。
冨岡 義勇
胡蝶 しのぶ
あなたさんはカナヲとは少し違いますが、自分の感情を知らないうちに押し殺している様に見えるんです。


時々、あなたさんとあなたさんの過去や親族について話をする。

彼女は終始、嫌な顔せず、にこにこと話をする。


だけど、私が話を切り出す瞬間だけ表情が止まる。

妙な殺気の様なものと共に。


特に御館様との会話の間でもそれは感じられた。


彼女の瞳の奥の更に向こう側で、何かが澱み、溜まっている気がする。


胡蝶 しのぶ
きっとその奥には何か、私達には見えない何かが…蠢いているのでしょう。
冨岡 義勇
…心配ない。俺は月夜里 あなたが足を挫いていた事に最初から気づいていた。ちゃんと見ている。

(まぁ、そういう事では無いのですけれどね…)


私はフッと息を吐くと、彼に微笑んだ。
胡蝶 しのぶ
宜しくお願いしますね、冨岡さん。
冨岡 義勇
…承知している。
胡蝶 しのぶ
それとあなたさんにはよく変な虫が付くみたいなので、定期的に払ってあげて下さい。(ニコッ)
冨岡 義勇
胡蝶 しのぶ
あっ、でも、冨岡さんが変な虫にならないで下さいね? どんなに優しいあなたさんでも、流石に嫌われますよ。
冨岡 義勇
…俺は別に構わない。それに俺が変な虫になんぞなるものか。
胡蝶 しのぶ
それなら良いですけど。

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