第82話

隊服の件について
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2019/10/10 01:06
濡れた髪の上に手拭いを軽く垂らし、前髪を真っ直ぐ目元が隠れるように整える。


(こうすれば私が誰なのか、あまり分かりませんね…)


最近は声をよく掛けて下さる患者の隊士の方々が多く、少し困っていた。
人見知りが前提の私には随分と頭を悩まされてしまう事柄だ。


お風呂上がりのポカポカした温かさが私を覆い、
私の体を吹き通っていく風が少しだけ冷たい。


(お風呂、気持ち良かったです…)


『トントントントン…』

木材の床を歩く足音と共に少し長い廊下を進む。

蝶屋敷でお世話になって暫く経ったが、自分の異常な方向音痴さのせいで、まだまだ屋敷の中では迷子になりそうになっている。

日常的に使用したり、よく立ち入る場所は心配ないのだが、
数回しか行ったことのない部屋や廊下に来てしまうと、さっぱり調理場や縁側の方には戻れなくなってしまうのだ。


(早いところ、何とか覚えていかないとっ…ですね!)


隊服の件でお話しようと考えていた、しのぶさんの居る部屋の前まで来た。

『トントンッ』
あなた

し、しのぶさんは、いらっしゃいますか?

胡蝶 しのぶ
はい、私はここに居ますけど…その声はあなたさんですね?
あなた

は、はい!す、少しお時間宜しいですか?

胡蝶 しのぶ
どうぞ。




胡蝶 しのぶ
成程、隊服の件ですね。分かりました。
あなた

あ、ありがとうございます!

胡蝶 しのぶ
それにしても、隠の後藤さんとは最近仲良いんですね。
あなた

は、はい!私宛に送って下さる食材や手紙をよく運んで下さっていて…

私は「あっ」と思い出し、つい前のめりになりかけて話し始める。
あなた

実は今日、先日までお世話になっていた町の方からお手紙を頂いたんです!それも後藤さんが持って来て下さって…




『あなたへ

元気か? 俺は元気だ。
あなたが町を離れてから少し経ったけど、皆変わらず元気に過ごしてるよ。

あなたが突然町に下りて来なくなって、俺は別に心配して無かったけど、
雛子や薊達が喚いていたら、湯屋のおばちゃんから「鬼狩り様と共に行ってしまったんだよ」と聞いて、少し安心してた。

虎次郎は「あなたねぇちゃんに会いたい」ってずっと泣いてて、あやすのに史郎が手こずってたぞ。


────それから、高田のおっちゃんと島崎のおばちゃんから伝言。
あなたの居場所を嗅ぎつけて、また各所から食材がこの町に大量に送られて来てる。

鬼狩り様の中にあなたに届けてくれる人が居るようなので、お願いした。

────変な奴に絡まれてないか、特に猪の奴とか。
怪我してないか、無理しすぎるなよ。

死ぬなよ。


それだけ。



湯殿町 代表

太一』




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