第89話

出来上がり
16,898
2019/10/15 21:42
『ザッ、ザザッ、ザッ』

夢中になって歩き進める度に、花に止まっていた蝶が舞い始める。
ひらひらと舞う蝶に囲まれて、私はやっと振り返った。
あなた

善逸さんっ、善逸さんっ!綺麗ですよ、お花も!蝶も!景色も!

我妻 善逸
っ…
あなた

ほらっ、こんなにっ、蝶がっ、お花が沢山っ!

私はバッと大きく手を広げて、クルクルと回ってみせる。
空を見上げ、夏の匂いが混じりつつある風を感じ、花畑と私の足が奏でる音に耳を傾ける。

大きく息を吸う度に、吐く度に、何度も心地良いと感じる。
我妻 善逸
こんなあなたちゃん、見た事ない。そもそも景色が引き立て役にしか見えないのは気のせいなのっ?!
あなた

えっ?

我妻 善逸
いやっ、何でも無いから!気にしなくていいから!ね!!!
あなた

は、はい…???






花畑や景色等を満喫した私は、アオイさんや炭治郎さん達を思い出し、善逸さんの元へと戻った。
あなた

善逸さん、そろそろ戻りますか?

我妻 善逸
えっ、嘘!もうそんな時間?!短すぎない?!
あなた

はい、残念ですけど…

我妻 善逸
も、もうちょっと待って!もうすぐ出来るから!
あなた

座り込んだままの善逸さんが器用にも何かを編み込んでいく。
手元の動きで何かを作っているのが分かった。
我妻 善逸
後もうちょっと…
あなた

??

近くの花を摘み取っては編み、摘み取っては編むを繰り返している。


(白詰草でしょうか…?)
我妻 善逸
俺、これだけは本当にうまいの出来るんだ。ほら、出来た!
私もその場で座ると、今まで花畑に埋もれていた善逸さんの手元を覗き込む。

そこには可愛い花冠が。
あなた

とっても可愛いです!凄いです、善逸さん!

我妻 善逸
でもね、まだ完成じゃないんだよね、
あなた

そうなんで

────すか?と、首を傾げて聞こうとした時、善逸さんの手が私の頭の上へと運ばれる。




『ファサ…』
我妻 善逸
これで出来上がり。
善逸さんは花冠を頭に乗せられた私を見て、少し恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
我妻 善逸
なんか…あなたちゃんが付けるとさ、本当のお姫様みたいでさ…
私とチラッとだけ目を合わせる。
それから真っ直ぐに私を見ている訳ではないけれど、人差し指で頬をかきながら続けた。




我妻 善逸
可愛い。




『ブワァッ…』



強めの風が2人に吹き付けた音なのか、それとも私の顔が赤く熱くなったものなのか。

分からなかった。

風で乱れる髪を耳元に手を当てて押さえる。

心音がいつもより早く鳴っている。


(ど、どうか、この胸の音が善逸さんに聞こえませんようにっ…//////)

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