第176話

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2020/12/03 17:00

突如、大きく揺れた視界に私は声を漏らした。


膝からガクンと力が抜けていく感覚が私を襲い、あっという間に私の両掌は地へと付けられる。


(どう、なっ、、、て…)


小刻みに震える両手を地面に付けたまま、上半身を支えるのが精一杯だった。


心做しか、息もしにくい。

上手く酸素を取り込めない。



『ポタッ、ポタタッ…』

体中から妙な汗が一気に吹き出し、

体温が急上昇している事が分かった。



地面に描かれる無数の水玉模様を見つめ、

私は苦しいのを面に出さないように微かに笑った。
あなた

やられ、まし、たね…


顔を上げて拳を武器にしていた部下の1人に視線を向けると、彼は両掌を広げてひらひらと動かした。
部下
流石です。察しが良いのですね。
あなた

部下
予め拳に毒を薄く塗っておきました。
貴方は鼻が良いと聞いていた為、匂いも無香料のものを選びました。
あなた

っ、ぁ…


『バサッ』

話の途中で身体を支えられなくなった私の両手は崩れ、私は地面の上に音を立てて倒れ込む。


(毒の…回りが、早、いで、す……)


あなた

はぁ、はぁっ、はぁっっ、…


今でも何度も殴打されて出来た傷口から毒が染みていく感覚が分かる。



冬場のガラス窓に出来る結露のように、視界の端からどんどん曇っていき、

刀を握る指先にすら力が入らない。


辛うじて瞼を閉じないようにと必死に意識を保つのみだ。


息がしづらい。


頭の思考回路は停止直前、もう何も考えられない。






部下
おい、大丈夫なのか?やけに毒の効果が強いようだが。
部下
確かに。あまりにも効き目が良すぎる。
部下
まさか、分量や配合に間違いがあったんじゃないだろうな?
部下
馬鹿を言え。きちんと情報通りに策を練ったんだ。

2人の部下は横たわった私の前に来ると、ゆっくりとその場でしゃがみ込んだ。
部下
何かあっても我々の責任にはならないさ。
部下
…そうだな。兎に角、あなた様を柊生様の元に連れて行こう。
部下
ああ。

部下の1人が肩、背中、膝の裏へと手を回してグッと抱き上げると、あっと声を上げる。
部下
おい、熱いぞ!本当に大丈夫なのか?!
部下
何だと?!発熱作用は無いと知らされていたぞ!
部下
…ま、まずすぎる。早く連れて行こう。
部下
車は呼んであるんだろうな?
部下
ああ、こっちだ。

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