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第1話

プロローグ・こんばんは 🌙
63,154
2019/08/21 22:34
『トントン』

誰かが店仕舞いを既に終えた甘味処の戸を叩いた。

私は仕込んでいた小豆の鍋蓋を閉じて、割烹着の背のリボンをスルスルと外すと、戸に向かって声をかける。
あなた

すみません、もう閉店してしまったんです。

さっきまでの小豆の甘い匂いが一瞬にして、別の匂いに押し潰される。

後味の悪そうな甘い匂いに鉄分が加えられた、異様な匂い。

この種の甘い匂いを放つのは、ひとつしかない。
稀血…食わせろ…
あなた

あぁ、私の事ですね。今、開けます。

私は調理場に隠してあった刀を手にすると、迷うこと無く戸を開けた。

その瞬間、大きな影が私に重なり、後味の悪い甘い匂いは更に濃くなった。

私はその大きなものの後ろにある、雲一つかかっていない月を見て言い放つ。
あなた

こんばんは。今夜はこんなにも月がくっきり見えますよ。

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