私は握られた温かい手と優しい声、透き通る様な仄かに香る甘い匂いに、また心地良さを覚える。
炭治郎さんの開いた足の間に座り込んだ私は、上手く言葉が出ずに、喉元で多数の言葉が混雑していた。
こんな時にでも、私の握られた手首はじわっと熱を帯びていた。
慌てて離した炭治郎さんの手が今度は私の頬へ触れる。
炭治郎さんは少し頬に触れた手の親指で私の頬を撫でる。
私はその手に自分の両手を重ねた。
私は炭治郎さんのその誠意に応えることを、
そして、
これからの私へと宣戦布告を決めた。
『ブワッ…』
頬が紅潮するのが自分でもはっきりと分かる。
暗い納戸の中だからこそ、私の真っ赤な頬が炭治郎さんに見えていない事がせめてもの救いだった。
納戸の中はいつの間にか、私には灼熱地獄の様に感じて、思わず外に出ようと戸を開けようとする。
その手を炭治郎さんは止めて、私に『駄目だ』と主張してきた。
炭治郎さんは言いかけた言葉を止めて、私の顔を見た。
見開いた目から赤みがかった瞳が、隙間からの弱い月光でキラッと光る。
互いの赤面は顔を手で覆っても、
溢れ出るように甘い匂いがした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!