第142話

三郎side
12,214
2020/02/26 01:13
意地悪をしてやろうと思った。

目の前の面を付けた女があまりにも嫌がるから、からかいがいがあると思った。

不細工でもそうでなくても、どうでも良かったが、適当に絡んで遊んでやろうと考えていた。

けど、
三郎
っ…////
『スルスルスル…』

面の結び目を解き、狐の反面を取った彼女は、
あなた

期待する程のもので無くて、ごめんなさい。さて、三郎さん、

優しい声と一致するように、本当に美しい顔立ちをしていた。

思わず息をするのを忘れる。

見た事が無い、ここまで綺麗な女を。


面を外したまま、俺の両手を取る彼女。


(お、おいっ…////)


初めて会った女に手を握られ、不覚にも高鳴る俺の胸にはお構い無しに、彼女はずずいっと顔を近づける。
あなた

お祭りのお話、聞かせて下さいな。






(とにかく、すげぇ綺麗な女だったなぁ…)


彼女と別れた後、俺は振り返りそうになるのを我慢して、

いつもの社へと向かおうとした。






遥音はるねに…会う為に。



社に行くには山中の長い階段を上り、所々剥げてしまった朱い鳥居を潜らなければいけない。

社に着いたら、まず縁結びの神様に礼をする。

それから遥音はるねの名を呼ぶんだ。
三郎
おい、遥音はるね…っ、あ、遊ぶぞっ…///
遥音は俺が我慢できなくなる迄、絶対に出て来ない。

痺れを切らした俺が探し始めると、クスクスと笑ってひょっこり俺の前に現れる。


『さっくん、…』


恥ずかしがりの遥音は顔を少し赤くして、ふにゃっと今にも溶けそうな笑みを浮かべるんだ。


『っ…//// お前さぁっ、俺が呼んでんだから、すって出て来いよ!//』


『ご、ごめん、っね? でも、さっくんが私の名前を呼んでくれるのが、好き…な、の…//////』


『なっ…う、うるせっ。///』


そっぽを向いて、社の階段に腰を下ろした俺の隣に、遥音も少しおどおどしながら隣に座る。


これがいつもの日常。

遥音との日常、遊び方、接し方。




名前ぐらい、いつだって呼んでやる。


そう思っていた。
三郎
遥音はるねーっ、
けど、今日は…
三郎
待てっ…遥音はるね、お願いだから出て来てくれ…っ、
遥音はるねが俺の隣に社の前で腰を下ろすことは無かった。

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