御館様が知っているとは思わなかった。
私が新月が昇る日は全集中の呼吸が使えないという事を。
そして、今宵はその新月だ。
だから、風柱・不死川実弥さんとの一戦に使いたくても使えなかったのだ。
(…一体、どこまで御館様は…?)
沈黙が流れる。
私は何だか居ずらくなって、そわそわしてしまいそうなのを必死で堪えた。
更に、挫いた足で身体を支えるのが妙に辛い。
突然の振りに私は戸惑った。
聞きたい事は勿論ある。
けど、この場で聞いて良いものなのだろうか、と、私は少し悩んだが、勇気を出して進む方を選んだ。
御館様は何も言わずに再度私に優しく微笑んだ。
その微笑みには何か意味がある様だが、私には分からなかった。
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『もし私があなたに10人目の柱になって欲しい、とお願いした時、あなたはどう答える?』
先程の御館様の質問が、ふと脳内で蘇る。
私は驚きと戸惑いのあまり、答えれずに居ると、御館様は穏やかな表情のまま続けた。
『次に会えるのは柱合会議だね。その時にでも、答えを教えておくれ。』
私は「はい。」という一つ返事しか出来ず、水柱様としのぶさんと共に部屋を出た。
御館様の屋敷を出ると、しのぶさんが私に振り向いた。
沢山の人を診てきただけあって、人の様子を見ただけで気づけるなんて驚く他ない。
私は背後から声を掛けて下さった水柱様に、両手を振って遠慮した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。