私は記憶が戻ったら彼に話そうと思っていた。
自分の言えなかったこと
彼に伝えたいこと
彼への気持ち、全てを言おうと思っていた。
じゃあ試合ここで見ようかと言って
彼女は私の隣に立った。
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カメラに触れるのも久しぶりだった。
写真を撮ることが大好きなのに
1ヶ月半くらいカメラを触らずにいたのだ。
(どんな写真、撮ってたっけ…)
データを見れば何か思い出すかもしれない。
嬉しいこと辛いこと、ここには全部詰まっている気がした。
写真を1枚1枚見ていると
彼らの写真が多かった。
でも、5月くらいで終わっている。
(あれ…撮りに行ってなかったっけ……)
5月ごろはまだ
撮りに行っていた気がするのに…
___________ 鉄朗くん…!
ある女の子の声がした。
黒尾さんのことを呼んでいた。
彼は"聖奈!"ととても嬉しそうに呼んでいた。
頭がズキっとした。
私は、聖奈という女の子を知っている。
頭が痛い。
(どうして…あの子を…?)
もう一度彼らを見ると
黒尾さんが聖奈という子の頭をポンポンしていた。
満面の笑みで、嬉しそうに。
___________ この光景にも見覚えがある。
そう言って私は涙を流していた。
頭痛がひどくなった。
もう少しで全部思い出せるのに…っ
そう、前の私は"黒尾くん"って呼んでいた
5月ごろから写真のデータがないのは
あの子がマネージャーとして入ってきたから。
私は"必要とされてない"って自覚して
彼から離れる事を選んだ。
とても悩んでいた。
別れを告げるか、もう少し我慢するか。
あの日、事故に遭ったのは
このことが原因ではないけど
精神的なストレスで一時的に
黒尾くんの記憶だけが抜けていたのだろう。
___________ 黒尾くん。
やっと、思い出しましたよ _________
涙が止まらなかった。
衛輔くんが言ってくれた言葉も思い出した。
いつも私を支えてくれてたのは衛輔くんなのに
衛輔くんの気持ちに応えられないのが
とても申し訳なかった。
もうすぐ練習試合が終わる。
私は彼に気持ちを伝えに行こうと思う。
彼女は記憶が戻ったことを喜んだと同時に涙を流していた。
私がそう言うと、
薫はまた更に泣いてしまった。
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フラれたっていい。
てかもう、別れようと言われた時点で
フラれている。
それでもちゃんとフラれてこよう。
去年の秋みたいに、フラれてスッキリしよう。
私は久しぶりに彼に連絡した。
彼とのトークは全て消されていた。
私たちの思い出は全て消えていた。
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話したいことがあります。
少しだけなので
練習試合終わったら体育館裏に来てください
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彼にそう連絡して
薫にも、今から行くと言った。
帰りも一人で大丈夫、だと。
薫は夜電話するからね!と言って
私を体育館裏まで連れてきて
帰っていった。
不安なことなんてたくさんある。
自分の気持ちに素直になれるのか。
ちゃんと彼への気持ちを伝えられるのか。
彼はここにきてくれるのか。
分かんないけど、来てくれたら
ちゃんと言おう。
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彼は制服に着替えて体育館裏に来た。
(何してんの!朝倉七海!!
ちゃんと気持ち伝えなきゃ!!!)
彼は安堵の表情を浮かべていた。
そう言って彼は頭を撫でてくれた。
もうどうなでもなれ!と思い
私は彼に想いを伝えた
うまくいかないことくらいわかってる。
もう別れたんだから、私たちは。
黒尾くんだって、もうとっくに好きな人見つけてるだろう…
彼は困っていた。
もう、なかったことにしたい。
恥ずかしい。
怖くなって私は車椅子で玄関の方へ向かった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。