第15話

( XV )
183
2020/12/17 14:41
交通事故に遭ってから2週間。
私は未だにあの黒髪の人のことを思い出せなかった。
毎日お見舞いに来てくれるのに
私は何も思い出せない。
黒尾 鉄朗
黒尾 鉄朗
元気にしてる?
朝倉 七海
朝倉 七海
あ、黒尾さん!こんにちは!
今日も彼は花を持ってお見舞いに来た。
練習で忙しいはずなのに。
朝倉 七海
朝倉 七海
あの、練習…
黒尾 鉄朗
黒尾 鉄朗
俺、話したいことがあって来たんだ
朝倉 七海
朝倉 七海
あ、はい…
彼は一度深呼吸をしてから話し始めた
黒尾 鉄朗
黒尾 鉄朗
俺たちが付き合ってることは
研磨や夜っ久んから聞いてる?
朝倉 七海
朝倉 七海
はい。3月から付き合ってるって
黒尾 鉄朗
黒尾 鉄朗
…別れよう、七海ちゃん
朝倉 七海
朝倉 七海
…え?私、まだ思い出せ…
黒尾 鉄朗
黒尾 鉄朗
分かってるよ、
記憶がまだ戻ってないことは。
朝倉 七海
朝倉 七海
なんで…
黒尾 鉄朗
黒尾 鉄朗
俺じゃなくて
夜っ久んの方がいいよ
朝倉 七海
朝倉 七海
でも…
黒尾 鉄朗
黒尾 鉄朗
俺じゃ、君を幸せにできない
たくさん悩ませたのだろう。
こういう決断をさせてしまった私が悪いのに
彼は頭を下げて謝った。
黒尾 鉄朗
黒尾 鉄朗
本当にごめん
朝倉 七海
朝倉 七海
…私も、すみません…
黒尾 鉄朗
黒尾 鉄朗
謝らないでよ
朝倉 七海
朝倉 七海
…すみません
黒尾 鉄朗
黒尾 鉄朗
今日はそれだけ伝えに来たんだ
今までありがとう、七海ちゃん
もっと彼のことを知りたかった。
もっと、優しい彼を知っているような気がした。
でも、彼を引き止めることはできなかった。

____________________

黒尾さんと別れて約1ヶ月が経った。
リハビリもして完全に治るまでは通院だけど
入院生活が終わり普通に学校に行けるようになった。

しばらくの間は車椅子での生活だった
間宮 薫
間宮 薫
七海!心配したんだから!
仲村 聖
仲村 聖
ほんとだよ〜!
朝倉 七海
朝倉 七海
ごめんね。薫、ひいちゃん
孤爪 研磨
孤爪 研磨
俺もお見舞い行けなくてごめん
朝倉 七海
朝倉 七海
研磨くん…
全然いいんだよ、ありがとう本当に
佐々木 遙
佐々木 遙
よかった、生きてて…
朝倉 七海
朝倉 七海
ハルはいつも大袈裟なんだよ…!
ごめんね、心配かけて…
間宮 薫
間宮 薫
あ、そうだ!
今日みんなでバレー部の練習
見にいこうよ!
朝倉 七海
朝倉 七海
え?
間宮 薫
間宮 薫
今日、練習試合らしいし!
朝倉 七海
朝倉 七海
邪魔に、ならないかな…
間宮 薫
間宮 薫
大丈夫だよ!
孤爪 研磨
孤爪 研磨
うん、ギャラリーなら
問題ないよ
間宮 薫
間宮 薫
ほらね!行こうよ〜!
佐々木 遙
佐々木 遙
俺、家の手伝いあるから行けねえわ…
仲村 聖
仲村 聖
私も用事があって…
間宮 薫
間宮 薫
そっか、仕方ないね、それは
朝倉 七海
朝倉 七海
…行こう、かな…
間宮 薫
間宮 薫
よし!じゃあ、私と七海で
応援行くね!
孤爪 研磨
孤爪 研磨
うん、ありがとう
何か思い出すかもしれない。
今日はたまたまカメラを持って来ていたのだ。

少しの期待と少しの不安が
私の胸の中で混ざる ___________













____________________

放課後、私は薫と一緒に
体育館のギャラリーに向かった。
間宮 薫
間宮 薫
ねえ、七海。
朝倉 七海
朝倉 七海
ん?
間宮 薫
間宮 薫
七海にとって黒尾さんって
どんな人なの?
朝倉 七海
朝倉 七海
くろ、お…さん?
間宮 薫
間宮 薫
うん、別れを告げられたって言ってたじゃん?
朝倉 七海
朝倉 七海
うん…
間宮 薫
間宮 薫
それで、七海たちの関係は変わったけど
七海の中での黒尾さんって
どんな存在なのかなって思って
朝倉 七海
朝倉 七海
私の中の黒尾さん、か…
彼のことはよく思い出せない。
事故に遭って目が覚めて
駆けつけてくれた時には
彼のことは覚えていなかった。

前の私にとっては
"いい彼氏"なのかもしれない。
その時のことはまだ思い出せない。
朝倉 七海
朝倉 七海
"今"の私の中では
"優しい先輩"かな。
間宮 薫
間宮 薫
そっか。
悪い印象じゃなくて、よかった
少し意味深な返事だった。
朝倉 七海
朝倉 七海
……黒尾さん、いい彼氏だったのかな。
間宮 薫
間宮 薫
どう、だろうね…
彼女は少し俯いて話していた。
間宮 薫
間宮 薫
私ね、七海が黒尾さんと付き合ってた時、たくさん悩んで泣いてるのを知ってるからさ。
もし、記憶が戻ってまだ黒尾さんが好きだってわかった時が怖いの。
朝倉 七海
朝倉 七海
薫…
間宮 薫
間宮 薫
…また、色んな不安とかに
押し潰されないか心配なの
朝倉 七海
朝倉 七海
記憶が戻った時
私はきっと、その時の想いを
黒尾さんに伝えると思うんだ。
___________ 今の私、には
彼がどんな人だったかわからない。

お見舞いに来ていた時だけしか知らない。
でも、その時の彼は
少しでも早く記憶が戻るように
彼自身の話をしてくれた。

(優しくて笑顔が素敵な人、だったな…)

面会時間ギリギリまで彼は居てくれていた。
バレー部の話もしてくれた。

そんな彼のことをもっと知りたいと思った。
今も知りたいと思っている。


___________ 早く思い出したいのに…
朝倉 七海
朝倉 七海
私はきっと今も彼を好きだと思う。
間宮 薫
間宮 薫
え?
朝倉 七海
朝倉 七海
彼との記憶がないって事は
それくらいショックなことが
起きたのかもしれない。
間宮 薫
間宮 薫
七海…
朝倉 七海
朝倉 七海
思い出せないから分かんないけど
多分今も、彼が好きなんだと思う
別れようと言われた時には気づいていた。
衛輔くんはもちろん好きだけど、
黒尾さんに対する「好き」とは違うって。

彼の笑顔をもっと見たいと思った。
彼の話をもっと聞きたいと思った。
彼がバレーしているところを見たいと思った。
彼の隣で歩きたいと思った。
彼の横顔、泣き顔を見たいと思った。



彼の全てが愛おしくなった。
早く次の日にならないかなって毎日思ってた。
早く来てほしいなって思うようになった。





気づいたら、
頭の中は黒尾さんのことでいっぱい。

















それくらい彼のことが好きなんだ、と思った。













彼が居るから、全てが明るく綺麗に見えた。
朝倉 七海
朝倉 七海
私、黒尾さんが好きなんだ。今でも

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