目を覚ますと、もう朝だった。
起き上がるとベットにもたれて寝ている
黒尾先輩がいた。
そう言ってわたしは毛布をかけてあげた。
熱を測るともう平熱まで下がっていた。
(これも先輩のおかげかな…)
彼は寝ぼけているのか
私の手を握った。
私の顔が一気に赤く熱くなる。
彼はハッとして手を離した。
「ごめん」と謝って俯いていた。
私がそう聞くと、彼はぽかんとして頷いた
断られると思った。
琳華さんのところに行くと思った。
でも彼は、眩しい笑顔で
と、言ってくれた。
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私は黒尾先輩と一緒に
外に出かけることにした。
ハルのお店に行って
一緒にケーキを食べたり
公園でお話ししたり
気づけばもう、辺りは暗くなっていた。
ここで帰ったら
きっと黒尾先輩に会うのは1月。
せめて、連絡先だけでも交換したかった。
でも、そんなこと言える勇気はなかった。
彼は私の横に並び歩き出した。
一歩一歩歩く度に足が重く感じる
帰りたくない、と
まだ一緒にいたい、と
ワガママな私が出てきている。
(だめ!我慢しなさい!朝倉七海!)
何も話さずにいたのを
不思議に思った黒尾先輩が
私にそう話しかけた。
黒尾先輩が何か言いかけた時、
彼のケータイが鳴った。
電話だ。
彼は出るか迷っていた
彼はごめん、と言って電話に出た。
少しだけ電話での会話が聞こえてしまった
相手の声も、そしてそれが誰かも分かってしまった
(やっぱり…琳華さん、か…)
これ以上は話を聞くのも悪いなと思ったので
近くのベンチに座った。
こういう時、素直に言えてたら
電話に出ずに琳華さんの元に行かずに
私のそばに居てくれるのかなと考えてしまう。
黒尾先輩の中から、まだ琳華さんは消えきっていないのだと思った。
電話を終えた彼が私の元に来る。
やっぱり、行ってしまうんですね
彼はごめんと言って
走って彼女の元に向かった。
せっかく楽しい時間を過ごせていたのに
やっぱり私じゃ黒尾先輩の隣には
いれないんだと思った。
もういい加減諦めないといけない。
そう考える度に涙が止まらなくなった。
私が泣いていると
近くにランニングしにきていた
衛輔くんに会った。
衛輔くんには泣いているところは見せられない
私が泣いていたら黒尾先輩が
責められるかもしれないから。
彼は私の顔を覗いてきた。
まだ涙が止まっていない。
自分の中では「止まれ!」と言っているのに
溢れるばかり
衛輔くんは昔から言わなくても分かってくれる。
私に何が起きたか大体分かってくれる。
彼女の名前を出すのも嫌だった。
衛輔くんは琳華さんのことを知っているから。
衛輔くんは怒っているように見えた
いつも笑顔で穏やかな衛輔くんが珍しく怒っていた。
私は彼に手を引かれ
家まで一緒に帰った。
今日のこと、
しばらくは思い出してしまいそうだし、
立ち直れそうにもない。
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黒尾先輩、わたし
貴方のこと、諦めます
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彼に会ってもいつも通り過ごすだけ
ただの"先輩"と"後輩"になるだけ。
もう、好きだとは思わない。
そう決めた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。