俯きながら言ってしまった。
心の声が漏れてしまった。
黒尾先輩の顔が見れない。
(やばい、どうしよう)
私はそう言って
カメラを持って教室に戻った。
黒尾先輩の顔を見れなかった。
恥ずかしくなった。
琳華さんがいるのに告白なんて…
って思ってたのに。
心の声が出てしまった。
(だめ…、いつから……)
教室に戻るとハルとひいちゃん、薫がいた。
彼らは私を見て驚いていた。
私の頬には涙が伝っていた。
薫がぎゅーっと抱きしめてくれた
彼女は耳元でそう言った。
私は頷いた。
彼女はただ、頭を撫でてくれた。
私が泣き止むまで、落ち着くまで
みんなそばにいてくれた。
ハルの作るザッハトルテは私の大好物だ。
今日はハルの言葉に甘えて、行くことにした。
玄関に行くと、衛輔くんたちがいた
衛輔くんの後ろには黒尾先輩がいた。
衛輔くんは私の目を見て
少し赤いことに気づいたみたいだった。
何も言わなかったけど。
ハルはそう言って、私たちは玄関を出た。
黒尾先輩を見ることはなかった。
みんなでハルの家に行って
ザッハトルテを食べた。
とても幸せな気分だった。
でも、黒尾先輩のことが頭から離れなかった。
みんなの前では平気なフリをしていたけど
自分が思っている以上にしんどかった。
(だめだ…もう黒尾さんに会えない)
そう思って練習風景を撮りに行くのも
少しの間やめることにした。
_____________________
その日はハルの家から薫と帰ることにした。
薫は私の話をちゃんと聞いてくれた。
ゆっくり思い出にしていこう
ゆっくり忘れていこう、と言ってくれた。
薫を家まで送って私も家に帰ることにした。
今日は晴れてきて、夜空には星が輝いていた。
(綺麗だなあ…)
近くの公園でぼーっと星を眺めていた。
私は考え事をする時
駅の近くの公園によく行く。
(もう、だめだな…)
恋をしたら、人間はダメになる。
私はそう考えていたから
今まで恋愛ができなかった。
黒尾先輩を好きになってから
頭の中は黒尾先輩のことばかりで
ずっと、考えてしまう。
(琳華さんがいるじゃない…)
私なんかじゃ釣り合うわけないんだ。
_______ 目を閉じて息を吸う
近づく冬の香りと
ふわっと香った柔軟剤の匂い _______
(誰か…いる…?)
ゆっくり目を開けるとそこには黒尾先輩がいた
私はベンチに置いていた
荷物を持って帰ろうとしたが、腕を掴まれた。
そう言ったら黒尾先輩は離してくれた。
彼に背を向けながら話す。
彼の目を見れない
彼の顔を見れない
振り返ると彼は少し悲しそうな顔をしていた。
そうお願いすると、彼は困っていた。
正直、吹っ切れるかどうかなんて分からない
でも、彼がそれで、困らないと言うなら
私は彼が困らない方を望む。
彼が幸せになることを望む。
言葉に詰まる。
本当はもっと、もっともっと
大切にして、ちゃんと伝えたかった。
ちゃんと、黒尾先輩が
振り向くってわかった時に伝えたかった。
泣きそう、辛い。
泣いちゃダメなのに。
泣きたらまた心配かけてしまうのに。
涙は止まってくれなかった。
答えが分かっていても
彼への想いは増す一方だ。
琳華さんに敵うわけがないのに。
そんなの最初からわかっているのに。
彼はそう言って、私を振った。
これでもう、黒尾先輩のことは諦めよう。
そう心に決めた。
そう言って涙を自分で拭いた。
私はそう言って、駅方面に歩き出す。
彼は戸惑いながらも、ありがとう、と言って
私の横に並んで歩き出した。
横に並ぶと実感する、黒尾先輩の背の高さ
(背、高いなあ…)
私、本当に吹っ切ることができるのだろうか…
と、思いながら彼の隣を歩く _______
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。