私が目を覚ますとそこには黒尾先輩がいた。
とても心配そうな顔で私を見ていた。
(でもなんで……)
私のマフラーを渡すために来たらしい。
衛輔くんに電話をしたら
熱を出してると聞いて飛んできたとのこと。
治ったと言っても免疫力は下がっているし
病み上がりだから体力もいつもより低い。
(だめだよ、黒尾先輩…)
「七海ちゃんは寝てないと…」と
言って私を寝かそうとする黒尾先輩。
風邪をうつしてしまうからと断り、
わたしは一人で横になった。
「何かしようか?」「なにしてほしい?」
と聞かれるが、そばにいてくれるだけでよかった。
ただひとつ。昨日のあの感覚を忘れられなくて。
手を握っていてほしいと頼んだ。
「わかった」と言った彼は
優しく温かく私の手を握ってくれた。
大きくて温かい黒尾先輩の手。
いつか隣で繋げたら…いいな ______
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気づけばもう夕方。
わたしは目を覚ました。
と言う彼の声は、私の耳元で聞こえた。
横を向くとすぐそこに彼の顔があった。
と、微笑む彼の顔が眩しかった。
(だめ、そんな顔しないで…)
何回も諦めようとしたのに…
もっともっと好きになっちゃう…
そう言って私の顔を覗いてくる
優しい顔。胸がキュンとした。
(あぁ、好きだ…ずっと…好きなんだ…)
熱が出ているからなのか
私の意思なのか
自分の口からこんな言葉が出るとは思わなかった。
彼をみると驚いた顔をしていた。
私はハッとして、さっきの言葉を訂正しようとした。
その時、私の視線に彼の顔はなかった。
耳元に息がかかり気付いた。
今、抱きしめられているんだ。と。
ハハと笑う彼だが、
私の顔は熱くなる一方だった。
彼の温もりが私を温める。
幸せな瞬間だった。
彼はそう言ってわたしから離れた。
わたしは顔を上げることができず、俯いていた
違う話題にしてくれても
私はさっきのことをずっと引きずったままで
忘れられなかった
(抱きしめるなんて…ずるい!)
昨日だって琳華さんの名前を呼んでいたのに。
(ずるい、ずるいよ……)
わたしはもう一回寝ようとしたけど
眠れなかった。
しばらくして、ドアをノックする音が聞こえた。
黒尾先輩がお粥を作ってくれたらしい。
でも私は黒尾先輩の顔を見たら
顔がどんどん熱くなるので寝たフリをすることにした。
少しずつ彼の声が近づいてくる。
私が寝ているのを確認して
持ってきたものをテーブルの上に置いた。
彼はベッドに座って
私の頭を撫でてくれた。
(全然いいのに…)
彼は私の頭を撫でながら
申し訳なさそうに俯いた。
少し悲しそうに話す彼。
聞こえてないから話すけど
という前置きを言ってから
彼は、彼自身の想いを話しはじめた
(ああ、あの日か…)
(忘れられない人…か…)
(え…?)
少しずつ、声が小さくなる彼
(寂しいって思ってくれたんだ…)
彼は今、どんな顔をしているんだろう。
どんな表情で話しているんだろう。
とても、気になる。
けど、まだ寝たフリを続けた。
そう言った後、彼は数分黙った。
彼の声を聞いているうちに
落ち着いてしまって
わたしはいつの間にか寝てしまっていた。
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kuro tetsuro side...
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七海ちゃん、俺 _________
寝ている彼女の頬に
気づかれないようにキスをした。
_________ 俺、七海ちゃんが好きだよ
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kuroo tetsuro side end...
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!