放課後。
今日は部活が週に1度の定休日だったので、ホームルームが終わるや否や友達であるリコと他愛のない会話をしながら帰る支度をしていた。
『…あれ…スマホがない…』
リコ「えー?どっかに落とした?」
ふと、スマホが見当たらないことに気づく。しかし、ポケットや鞄を確認してもそれらしきものはなかった。
最後にスマホを開いた記憶があるのは、お昼休みに音楽室でバンドグループで集まって次のライブでやる曲決めの話し合いをしたとき。
私もスマホを開いて、コピーする曲の候補を探したんだ。
その後、「今日は放課後部活ないし1曲だけ弾いてく?」って流れになったから私はスマホをポケットに閉まった───ような記憶はあるんだけど。
うーん…。
演奏中に落としてしまったのかもしれない。
『ちょっと音楽室とか探してみる』
リコ「手伝おうか?」
『リコ、今日デートじゃなかった?どうせすぐ見つかると思うし、1人で大丈夫』
そう言ってリコとバイバイしてすぐ、私は音楽室に向かった。
音楽室の扉は空いていた。
7限目に授業があったのかもしれない。
中に入り、お昼休みに演奏をしたあたりに足を運ぶと、そこにぽつんとスマホらしきものが落ちてあるのが確認できた。
拾ってみると、それは間違いなく私のスマホ。
今度こそちゃんとポケットに入れ、踵を返して音楽室を出ようとした。
…その時。
準備室の方からガタと、何かが落ちたような音がしたのだ。
機材がバランス崩して落ちたのかな。
軽音楽部の人たちって、時々片付けが雑だから、無理くり積み重ねたりしたのかも。
って、幽霊とかだったらどうしよう。
そんなことを思いながら、私は準備室の様子を見ることにした。
心霊現象ではないと思うけれど、もしそうだったら怖いので、なるべく音を立てないようにドアを開ける。
恐る恐る顔をのぞかせ、──そして私は、その光景を目の当たりにしたのだった。
少しだけ開けた扉の向こう。
そこには、同じバンドメンバーのサラと、“みんなの道枝くん”が抱き合ってキスをしている姿があった。
………な、なんだ、今のは。
サラ…?彼氏いるんじゃなかったっけ、あの子。
それでいて道枝くん…?
動揺してドアを閉めることも声を発することもできない私。
私がいることに気づかないままの2人の行為はどんどんエスカレートしていく。
サラ「…道枝くん、あんまり焦らさないで…」
道枝「欲しがりだねサラ先輩は」
サラ「もう、早くきもちよくして?」
まずい、まずい、まずい。
一刻も早くここを去らなくては。
見てはいけないものを見てしまった。
…しかもよりによって同じバンドメンバーなんて。
…見ていたのがバレたら、今後どうやって接していいかわからない。
震える手でドアノブを握り、そっとドアを引く。
…あとは、最後の“ガチャ”さえ押さえれば────
ブーッ、ブーッ
『ひっ、!」
────ガチャンッ
道枝「…は?」
サラ「なに?…っだれかいるの!?」
雨宮 あなた、18歳。
人生終了のお知らせです。
大きく音を立てて閉まったドアはすぐに勢いよく開けられ、その拍子に扉はガンっと私のおでこに直撃した。
痛すぎて言葉にならない。
おでこを抑えてその場にしゃがみ込む。
すごい災難が重なってしまった。おでこは痛いし、ドアから顔をのぞかせた人物の姿を捉えるのが怖い。
ポケットに入れたスマホがあのタイミングで鳴ったせいで…!
こんなことならスマホ探しになんて来なきゃよかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。