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第1話

放課後、いつもの図書室で
(なまえ)
あなた
ちょっと先輩、起きてください
 放課後。
 まだ誰もいない、ふたりっきりの図書室で渡辺時雨わたなべしぐれ先輩に声をかける。
時雨
時雨
すぅ……
 返却本を本棚に返してきただけなのに。ちょっと目を離した隙にまた寝てる。
(なまえ)
あなた
もう……。……ふふっ
 つい頬がゆるんでしまう。
 ……二年の教室、図書室に近くてよかったなぁ。ちょっとだけ、先輩の寝顔をひとりじめできる。
 ちらっと、廊下を振り返る。まだ人影はない。
 私にとって、図書委員の仕事がある日の放課後は、特別なもの。
 図書室は自分の好きなもので溢れていて、とっても落ち着くの。
 意地っ張りで虚勢きょせいを張っちゃう私が素直になれる、特別で、大好きな場所だから。
 今気持ちよさそうに寝てるのは、三年の渡辺先輩。
 先輩は同じ図書委員で、委員長だ。
 いつもゆるっとしててやる気なさそうなのに、成績優秀で学校内外にもファンがいるイケメンさん。
 そして……何の取り柄もない私とは、住んでる世界の違う人。
 だけど、春の陽気みたいな先輩は私にもやさしくて、とっつきやすくて、一緒にいると気持ちが楽で……。
 私の——好きな人だ。
 見慣れた景色と気の置けない人だけのこの場所では、自然体でいられる。
(なまえ)
あなた
……とはいえ
(なまえ)
あなた
(そろそろ起きてもらわないと
 図書委員のお仕事が
 あるんだよなぁ……)
(なまえ)
あなた
せんぱーい
 貸出カウンターの中に入って、壁にもたれて眠る先輩の肩を軽く揺らす。
時雨
時雨
ん……
 ふわふわの黒髪からのぞく、人形のように整った寝顔が綺麗で、とくとく心臓の音が大きくなる。
(なまえ)
あなた
あっ
 その時、ぱちっとまぶたを開けた先輩と目が合って、どくん、と心臓がはねた。
 けだるげな色をまとった黒い瞳はどこか色っぽくて……、目が離せない。
時雨
時雨
あーあなたちゃんだぁ。
ごめん、ねむくって
 へにゃっとやさしく笑ったその表情に、胸がぎゅっと締め付けられる。
(なまえ)
あなた
(うっ……かっこいい……)
 って、そうじゃなくて!
(なまえ)
あなた
先輩、委員長なんだから。
しっかりしてくださいよ
 腕をぐーっと大きく伸ばした先輩は、二年間募らせた私の恋心になんて少しも気づいていない。
 ちょっと目を離した隙に寝ちゃうくらいのんきでマイペースで、相変わらずゆるゆる。
(なまえ)
あなた
(でも……
 そういうところもすき、とか)
 心の中で唱えるだけで、顔から火が出そうだ。
 こんな気持ち、絶対伝えられないけど。
 触れた頬があつい。
時雨
時雨
なぁに?
そんなに見つめられると
穴があいちゃうよ
 ふいにへらっと笑った先輩と視線が交わって、胸が高鳴る。
(なまえ)
あなた
べつに、なんでもないです
 思わず口をついて出たのはかわいげのない言葉。
(なまえ)
あなた
あ、……えっと
 言いつくろうとして口を開いた私をさえぎるように、廊下から「きゃー!」という女の子たちの黄色い声が飛んできた。
女子生徒1
寝起きの時雨くん
超レアじゃない!?
女子生徒2
ねぇ時雨センパイ~
おすすめの本教えて~!
 ……完全にタイミングを失ってしまった。
 声を上げる女の子たちを横目に、先輩から少し離れた場所へ避難した。
 先輩はモテる。それはもうほんと、嫌になるほどに。
時雨
時雨
おすすめは、
この前入ったばっかりの絵本だよ。
俺の好きなシリーズ
女子生徒1
絵本好きなの? かわいい~
(なまえ)
あなた
(……それくらい
 私はずっと前から知ってるもん)
 だけど、こんなことでいちいち張り合ってたら身が持たない。
だって、〝渡辺時雨モテ伝説!!〟みたいなのはあげればキリがないもの。
 でも、どうしたって気になってしまう。
女子生徒2
私もこのうさちゃん好きだよ!
へー、英語版なんだ
時雨
時雨
英語の勉強にも
おすすめなんだよ。絵本って
 やっぱり没個性な見た目でかわいげもない私とは、住む世界が違うんだな……。
 きらきらしたかわいい女の子たちと、人気者の先輩。
 楽しそうに話しているのを眺めていると、さっきまで私に笑いかけていた先輩がずっと遠い人のように思えてしまう。
(なまえ)
あなた
それに比べて私は……
 先輩と気軽に話せる今の関係は奇跡みたいなもの、なんだ。
 ぎゅっと手を握りしめた。


 ***

女子生徒1
時雨くんじゃーねー!
時雨
時雨
うん、ばいばい
 ひらひらと手を振る先輩の姿を眺める。
(なまえ)
あなた
相変わらずモテモテですね
 もやもやした気持ちのままに、口にした言葉はまるで八つ当たりのよう。
時雨
時雨
そうなのかなぁ。けど俺は
あなたちゃんとふたりっきりの
静かな図書室の方が好きだけどね
(なまえ)
あなた
 なに、それ……。
 びっくりして、黒く沈んでいた感情はどっかに消え去ってしまう。
 なのに当の先輩はのんきにあくびなんかしちゃって。
(なまえ)
あなた
先輩ってほんと……。
にぶちんゆるゆる野郎ですよね
時雨
時雨
えー。あはは、なにそれ
(なまえ)
あなた
(うぅっ……)
 今の関係を壊したくないのに、好きばっか溢れてく。
 嫌なこと忘れさせて、私の心を引き上げてくれる先輩の、その何気ない一言も、きらきら眩しい笑顔も、ぜんぶぜんぶ無自覚なの、ほんっっっとたちが悪い!
(なまえ)
あなた
……こほん。
先輩も寝てないで
ちゃんと仕事してくださいね
時雨
時雨
わぁ、手厳しい。あなたちゃんに
怒られちゃったから
真面目にお仕事しよっかな
(なまえ)
あなた
もう



 穏やかでゆっくりした時間が流れる図書室。
時雨
時雨
……ね、あなたちゃん
 普段通りの、のんびりした調子で名前を呼ばれ、読んでいた文庫本からふっと顔を上げた。
 作り終えた本紹介のポップを横に置いた先輩がこちらをじっと見つめている。
(なまえ)
あなた
なんですか……?
 その目はさっきまで真面目に作業していたからなのか、少し真剣さを帯びていて、いつもと違う雰囲気にどきっとする。
時雨
時雨
俺と
——付き合ってくれない?
(なまえ)
あなた
は…………?
 先輩の口から告げられた突然の告白に、状況を把握しきれず思わず固まってしまった。
 どういうこと……?
 徐々に言葉の意味を理解した心臓がばくばくと暴れだす。
 思わずつねったほっぺはしっかり痛くて。
(なまえ)
あなた
(夢、じゃない……?)