北斗「…じゅーり、」
樹「…」
北斗「そろそろ樹あたるよ…」
樹「…ほくと、答え…」
北斗「やーだ、」
樹「…ゴンッッ」
生ぬるい風が窓から入る昼下がりの教室
数学の授業
抑揚のない先生の声
13:50
眠い時間帯
いくつかの頭が舟をこぎ
またいくつかの頭が机に突っ伏し
他の頭は黒板とノートを行き来するためにせわしなく動く
隣で気持ちよさそうに眠る樹も机に突っ伏した一人
せっかく起こしたのにまたすやすやと眠り始める
今日は朝来れたからそっとしておこうかな、なんて思った矢先
「田中~、この問題いけるか~」
ほら言わんこっちゃない
わき腹をシャーペンでつんとつつく。
びくっと体を震わせてゆっくりと頭を上げる。
ちょっと下を向いて何度か瞬きを繰り返す
ここまでが樹の一連の流れ
ぎゅーっと目を凝らして黒板を見つめる。
先生はそれを焦らせることなく前に座る生徒と雑談している。
樹「…ほくとわかんない、」
北斗「この公式に代入して解くの、」
樹「んん…」
まっさらなノートに公式を書いて数を代入していく樹をじっと見つめる。
ちょっとしわが寄った眉間が寝起きだからか時々ぴくっと震える。
俺のノートを覗き込むから見えやすいように斜めにしてあげると
んへ、ありがと
なんて声が聞こえた
樹「5ⅹ+2Y」
「おー、あってんじゃん、田中やるなぁ」
先生、俺だってすごいもん。
俺が樹に答え教えてあげたもん
ってちょっと思ってると
「松村ナイスアドバイス」
って先生が親指をぴんっと上にあげた。
隣の樹を見ると頭を机につけながらピースしてやったな、なんて言ってくる
俺はちょっと気恥ずかしくなってぺこっと頭を下げて樹のピースにグーを出して
北斗「俺の勝ちぃ」
って言ってやった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。