第7話

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2019/10/17 22:37
それはある日、突然に始まった。
悪いあなた、俺今日美玖みくに勉強教えるから一緒に帰れねえわ!
あなた

……あ、そうなの?分かった

ごめんなー!と言いながら小走りで教室を出ていく遊を自分の席から見送る。

美玖って理系の子だよね……確か結構可愛い子。でもあの子彼氏持ちだし、まぁいいか。


ということが、毎日続いた。

あなた

……最近なんか遊おかしくない?

遊と別れ、放課後、私はなちと一緒にワクドナルドにいた。

テーブルに頬杖をついてなんとなく私がぼやくと、向かいに座るなちは割り勘で買ったポテトをつまみ、口へ運びながら言った。
なち
別に普通じゃない?いつも通り、あなたにべったりじゃん
あなた

そんなことないよ。いや、あるけど、ほら今はいないじゃん

なち
……まーね
察しがついたような声と表情でなちが言う。

なんだか勘違いされている気がするので、一応なちに説明しておいた。
あなた

別にいないのが嫌とか、嫉妬してるとかそんなんじゃないよ?ただ、ずーっと私のとこ来てたのになんか、私より美玖ちゃん優先するのかーみたいな

なち
嫉妬じゃん
あなた

は、違うし!!

美玖ちゃんに嫉妬とかあるわけない。あっちは彼氏持ちで遊は私の彼氏だぞ。

なちがため息をついて口を開いた。
なち
……まぁ、珍しいよね。あなたと一緒に帰るのを放棄してまで他の女子に勉強教えるなんて
あなた

そう……って自分で言うのはなんか変なんだけど、まぁそうなのよ。てか美玖ちゃんもなんで遊に頼むかな?彼氏に聞けばいいじゃん

なち
それは言えてる。たきくんだったっけ、頭悪いのかな
あなた

知らないけど、別に頭悪くても一緒に考えたらよくない?滝くんの方もいいのかな、遊と二人で勉強なんて

なち
いいからこうなってるんでしょ。あっちは二年以上続いてるベテランだし、放し飼いもOKなんだよきっと
あなた

犬好きだからって人を犬に喩えない!
……って感じで、なんか変だなって思うわけよ。遊も美玖ちゃんもね

私はようやくポテトを一本食べた。

まだ温かかったけれど、もう揚げたての熱さではなくなっていた。

……遊の私を好きな気持ちも、このポテトみたいに冷めちゃったのかな……。
なち
そんなに気になるなら聞いてみれば?「浮気?」って
あなた

バカなの!?聞くわけないじゃん!しかもわざわざ聞くほど気になってないし

なち
……よく言うわ
なちの呟きは聞こえていたけれどスルーした。

嫉妬じゃない。だいたい私がひとりで気にしたって何も変わらないんだから、考えるだけ無駄。思うだけ無駄なの。


――……頭では、嫌になるくらい、分かってるのに。

あなた

はぁー…………

なち
だから、そんなため息つくくらいなら聞
あなた

違うから!!そうじゃないの!

大声で言って、勢いのままテーブルに突っ伏す。

しばらく起き上がれなくて、突っ伏した状態でなちと別の雑談を始めたけれど、なちは注意も文句もなしに付き合ってくれた。

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