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入院している1ヶ月間、海斗は毎日のようにあずさに会いに行きました。
不安そうにする彼女に時おり話しかけます。
「あずさ……あずさは……覚えてないかもしれないけど、君は寝る前によく電話をしてきたんだよ。そ、それにね……」
これまでの記憶を思い出してもらえるように、いくつかの思い出話をします。
けれど、彼女は無機質な表情を浮かべるばかりです。
恋人の記憶がないあずさにとって、海斗は他人同然でした。
かつて瞳の中に満ち満ちていた光はなく、まるで恐れているような瞳を彼へ向けます。
にこにことして幸せそうだった事故に遭う前の彼女はいません。
そんな彼女を目の当たりにして彼は過酷な現実に苦しみます。
喪失感は計り知れません。
それでも、いつかは思い出してくれるかもしれない。
この想いが彼女の記憶の扉を開くかもしれない。
そう願って関わることをやめませんでした。
彼女が退院してからも声をかけます。
「あずさ。一緒に帰らないか」
「あずさ……」
海斗は懸命でした。
恋人のためにすべてを尽くす想いで、愛をそそぎます。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!