第40話

あと、もう一歩だけ
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2022/07/16 12:00
試合は、2セットとも音駒がストレートで取った。





少し休憩を挟んで、また2試合。






流石に全員バテバテなので、ひとまず試合は終えることになった。











あなた「……、!」










スクイズを片付けるために水道場に出ると、ちょうど汗を流し終わった田中くんと遭遇した。



私に気が付くとキッと睨んで、その鋭さに目を逸らした。












田中「________お前のこと、許した覚えねぇからな。」


あなた「……………………、」


田中「なんで悠々と新しい学校で楽しくやってんだよ。恵介さんの気持ち考えたことあんのか。」












山田先輩の……気持ち。




そっちこそ、私の気持ちを考えたことはあるのだろうか。




君たちの信じているものは、あぁも醜く残酷なものだというのに。







だけどそれを________信じてもらいたいだなんて、思わない。





もう、諦めているから。









だけど________私に取って、音駒の皆は。







孤爪くんと、黒尾先輩は。













あなた「________私には、何言ってもいい。」


田中「あ?」


あなた「でも、音駒の人たちに突っかかるのはやめて。関係ないから。」












それだけ言って、もう顔を逸らして業務に戻った。






田中くんはまだ何か言いたげだったけど、体育館の方に戻っていく。







心臓がうるさい。




信じられないほどに緊張してしまっていたのだと分かる。







それでも、言えた。






ちゃんと、言葉にできた。








それが_______それだけが、何より今は嬉しくて。





少しずつ、前に進んでいけばいいんだと。








そう思えた。















あなた「、ボール……?」













体育館の外にギリギリ出ていたボール。





見落としていたのだろう。








烏野の物のようなので、体育倉庫に戻しに向かった。














黒尾「おー、拾い残し?」


あなた「は、はい……。お疲れ様、です。」


黒尾「さんきゅー。」









ネットを片付けにきていた黒尾先輩と鉢会い、少し会話を交わした。






言うべきなのかな……ちゃんと田中くんに言い返せたって。






いや、関係ないもんね、私がどんな風に変わったって……だから、










でも、なんだかこの人には________






黒尾𝓈𝒾𝒹𝑒.°






なんかモジモジしてんなぁ。





何か言いたいことがあるのか、それとも。













あなた「ッあ、あの________、!」


黒尾「!危ない、!」










不安定な棚から、先程しまったタイマーがバランスを崩して傾く。




咄嗟に伸ばした手で彼女を掴んで、こちらに引き寄せた。








ガシャンッ!!










足元に落ちたタイマー。




頭に当たる所だったな……。










黒尾「大丈夫か?当たったりしてな________、」









しまった。



咄嗟の事とは言え、こんな風に掴んだら……、












あなた「________〜、だ、い……、」


黒尾「すまん、掴んだりして。……、おい、平気か?」











青白い顔を逸らして、ガクガクと震え始める手足。




必死に抑えて、見せないようにしているのが分かった。









まだこの子の中には、あの時のトラウマがしつこく根を張っている。






克服は……難しそうだ。












あなた「め________、ごめ、なさ、」


黒尾「っおい、ちょっと!」














震える足を動かして、走って倉庫から出て行った。











黒尾「………………、」


孤爪「クロ、何かあったの?」


黒尾「ん?いやー…………難しいもんだな。」













あなた 𝓈𝒾𝒹𝑒.°








体育館から出て木陰に入り、深呼吸をする。





黒尾先輩に嫌な思いをさせてしまったかもしれない。






最低だ、私…………、













「す、すみませんあの……ここの生徒さんですか?」


あなた「、!」











背後から声をかけられて、振り向くと保護者のようだった。




事務室を探しているのだけど、と尋ねられ、もちろん場所はまだ覚えていたのでご案内した。







助かった。




少し気分が和らいだ気がする。









事務室に着くと頭を下げられて、こちらも同じようにお辞儀した。











「あ、君……!ちょっと悪いんだけど、これE棟の準備室に持って行ってくれないかな?」


あなた「え、……や私、ここの生徒じゃ、」


「1年生?場所分かる?」









事務室の先生に声をかけられて、慌ててしまった。












いや、場所は分かるんだけど。




ジャージだから私が他校の生徒だと分からないのだろうか。






いやでも、事務室までこうして案内しているからここの生徒に思われても不思議ではない。








あやふやな態度を取ってしまい、結局段ボールをひとつ持たされた。





というか、部活中の生徒に雑用任せないでほしい。










ひとまず任されたものはしょうがないので、事務室に背を向けてE棟に向かった。
















ここでいい、のかな……?





入ってみると段ボールの山があって、その一番上に手に持っていたそれを重ねて置いた。









こうしてると……まだ烏野に通っているみたいだ。








と、早く戻らないと心配されてしまう。















________心配、してくれるだろうか。









あの時、落ちてきた物を避けるために手を引いてくれたのは分かっている。





分かっているのに……手が触れたその瞬間、どうしようもない恐怖心と過度な心拍数に襲われた。









怖がっている私を見て、黒尾先輩は少し……哀しい顔をしていた……気がする。







面倒な女だ。








そう思われても仕方がない。






だけどそれが、彼らを嫌っているからではないと、分かってほしい。







少しずつだけど確実に、前に進めてきているような気がするのに。











の影が脳裏に過ぎって、離れない。








この呪縛からいつ、解放されるのか分からない。








どうすれば良いのか、何が正解なのか。









あと、もう一歩踏み出すことさえ出来れば________






































ガララ、






















?「________よぉ、久しぶりだな。」
















耳に入った途端、身を硬直させ背筋を凍らせるこの声は。











何も変わっていなかった。



































山田「まさか烏野にいるとは思わなかったよ。」

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