第72話

最後まで守り通したモノ
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2023/11/26 12:00
あなた 𝓈𝒾𝒹𝑒.°











あなた「大変失礼いたしました……。」


澤村「いやっ、どう考えても悪いのは西谷だから、花野井さんが謝る事じゃないぞ!」










西谷くんの顔面に放ったビンタは思いっきり入って、いい音を立てて彼を吹っ飛ばした。





つい手が出てしまった……。









練習の妨げになってしまったと、主将さんに頭を下げる。







こっちの主将さんは、3年の澤村大地さん。





黒尾先輩とはまた違う感じの人だけど、落ち着いている所は似ているかも。








チラりと西谷くんに視線を向けると、赤い手形の付いた頬をさすりながら大笑いをしている。




相変わらず元気な人……。














田中「おいあなた〜!!俺にも再会のビンタを_____」


あなた「……やるかアホ。」













こっちも馬鹿。





だけど、不思議と物怖じせず話す事ができている自分に驚いた。





元々は仲が良かったというのはあるんだろうけど、それより多分、意識的にかは分からないけど接しやすくしてくれているのかもしれない。












日向「あのっ!!」


あなた「!?」











飛び上がって元気よく自己アピールを始めたオレンジ髪の男の子。





あれ、確か……。













あなた「……ぁ、もしかして金棒さん……?」


日向「ふぇ?」











あ、しまった。





練習試合の時に猫又監督が言っていたことをそのまま口にしてしまった。






「なんでもないです、」と首を振ると、不思議そうな顔をしていたけれどすぐに表情に花を咲かせた。















日向「俺っ、日向翔陽って言います!」


あなた「ぅ、あ…………花野井、あなたです、」


日向「ねねっ!研磨と仲良いんですよね!」


あなた「え"、いや……同じクラスってだけで、」


菅原「おい日向っ、がっつきすぎんな!」











ズイズイと身を近付けてくるので反射で後ずさっていると、銀髪で目の横に黒子のある人が彼を引き剥がした。












菅原「ごめんね、無理して相手しなくていいからね。」













小さく手を動かし謝ってきたので、首を振った。





あ、この人優しそう……。










なんだか笑顔の周りにお花が咲いて見える。












縁下「あなた。」


あなた「、え?」











マイナスイオンを感じていたところに話しかけられて、振り向くと見覚えのある女の人。





あ…………ひとつ上の、美人って噂されてた……清水先輩。










縁下「マネージャーの、清水先輩。」


清水「あなたちゃん、今日はよろしくね。」









ふわりと笑って、目を細めた。





綺麗…………音駒で美人と噂の西園寺先輩はどこかとっつきにくい感じあるけど、この人はおっとりしてて話しやすそうかも。







ひとまず清水先輩と一緒に練習を見学する事になった。











清水「え、それじゃあ今はマネージャーやってないの?」


あなた「まぁ……元々期間限定のお手伝いみたいなものだったので、」


清水「そうなんだ……。私は、あなたちゃんマネージャー向いてると思った。」


あなた「え?」









思わず横の先輩の方を向くと、知性を感じさせるメガネの奥で目元を緩めた。









あなた「なんで、ですか……?」


清水「あなたちゃんって、周りをよく見ている人だって思うから____かな、」


あなた「周りを……、」









多分、それは。





人が怖くて、警戒していて、いつも神経を張り巡らせていたからで。






だから私の本質ではないっていうか。










あなた「……人が怖いから、見てるだけです。」


清水「…………辛い事があってから?」













優しい声で尋ねられて頷くと、飛んできたボールを拾い上げて選手に返しながら先輩は首を横に振った。













清水「今はそうなのかもしれないけど……私は、あなたちゃんが烏野にいる時からずっと、思ってた。」


あなた「_______え、?」












私、清水先輩とは面識はなかったはず。




不思議に思い再度顔を向けると、「実はね、」と話し始めた。











清水「田中や西谷と仲良くしている女の子って事で、私は前からあなたちゃんを知っていたの。」


あなた「……、」


清水「それは、アイツらが練習でしょっちゅう貴女の話を楽しそうにしていたから。」


あなた「…………え?あの2人が、?」










尋ねると、クスりと笑って頷く。





練習中の2人を見てみると、本当に楽しそうにボールに触っていて。











清水「縁下達が、部活に参加しなかった時期があったでしょ?」


あなた「……はい、おっかない監督が来たとか、」


清水「そ。その時、田中達は心配こそしていたけど……結局、貴女がいるからなんとかなるだろって、そう言ってた。」


あなた「…………。」











確かにあの頃、私自身も部を休み始めた頃。




同時くらいにサボり癖が始まった力達の愚痴や相談に、乗っていた。








だけど……。








私は、山田先輩との事があって、男の人が怖くなって、力をも拒絶した。












清水「そうやって、人の心を開く力があるんじゃないかなって思うんだ。」


あなた「でも…………それが出来なかったから、私は1人になりました。」


清水「……気持ちが分かるなんて、無責任なこと言いえないけど。同じマネージャーとして、私は真実を知った時、貴女を尊敬した。」








"尊敬"





思っても見なかった言葉。









清水「だって貴女は、マネージャーとして、自分に酷いことをしてきた人のバスケを守りたくて、最後まで何も言わず、去っていくことを選んだから。」


あなた「〜、」


清水「きっと貴女が、本気で本当のことを打ち明ければ……縁下は勿論、田中達も無碍にはしなかった。それをしなかったのは、貴女が最後の最後まで、立派にマネージャーをやっていたからだって思う。」







「そりゃ、相談して欲しかったと思うけどね、アイツらも。」と付け加えて、それから清水先輩は、考え込んでしまった私を見てもう何も言わなかった。







マネージャーとして……最後まで。



















きっと、本当のことを言いさえすれば、こんな結果にはならなかったんだろう。







あの頃のまま、皆で笑っていられたんだろう。








言わなかったことを後悔はしていない。






だけど、私の本当の言葉を受け入れ、信じてくれる人がいたんだって。









そしてそれは、力達だけじゃなくて。














『俺ら以外に誰がいる。』






『助けてって、言っていいよ。』















"彼ら"も、同じだ。

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