第6話

理解者
14,017
2021/04/05 12:00
孤爪𝓈𝒾𝒹𝑒.°




森川「あなた、図書室の場所分かる?一緒に行ったげようか。」


あなた「ううん、横山さんが案内してくれたから覚えてるよ〜。ありがとっ。」





帰りのHRが終わってしまい、委員会に行かないといけない。


本当なら先に行った相方の後をゆっくりとつけていきたいところだけど、彼女は転校生だからそうもいかない。






孤爪「……。」






いつまでもここにいても仕方がない。



荷物をまとめて席を立つと、廊下がザワっと盛り上がった。





数秒して後ろの扉の窓からこちらを覗く影。



……ああ。







黒尾「研磨ぁ、部活行くぞ〜。」


孤爪「……教室まで来なくて良いって言ったのに、






揶揄うような口調で俺に手を振ると、教室中の空気が熱を持ったのが分かった。



俺の幼馴染は、何故かよくモテる。




人をよく観察しているからか、そういうのにも俺は気付きやすいけど……多分これは、誰でも気付く。





クロは立っているだけで視線の的。


わざとぶつかりに行って会話を強請る女の子もいるし、密かにこさえたカメラで盗撮をする女の子もいる。


うちの学校には何人かそういう男子がいて、クロはそのうちの1人___________というか、流石にファンクラブを持っている一つ上の赤司先輩には及ばないけど。


一緒に歩いていると"なんでアイツが"って目を向けられるし、正直疲れた。




だけど無視していたら教室内に入ってくるだけ。



とりあえず周囲の視線を浴びながら、廊下に出た。









孤爪「……クロ、教室来ないでって言った。」


黒尾「だってこうでもしないとお前なかなか部活来ないだろ?目立ったのは謝るよ、どーすぐ慣れるっ。」





クロのタチが悪いところは、自分がモテていると自覚している事。


だからって女遊びに走ったりはしないけど、(それをしたら俺はもうバレー部辞める)器用にその立場を利用して女の子の反応を見て楽しんでる。



もっとタチが悪いのは、そんな思わせぶりな態度をとっておいていざ告白されたら"誰だっけ?"。



ただ誰にでも優しいように接しているだけだから、クロが悪くないように映るんだ。






黒尾「ホラホラ、部活〜っ。今日は新入生も入ってくるぞ?」


孤爪「……無理。先行ってて。」


黒尾「……おいおい研磨くん、新学期早々サボりですか?主将の立場からしたら看過できませんねぇ?」





俺の言葉に一瞬目を見開いたけど、すぐにいつもの調子に戻って肩を組んできた。






孤爪「そうじゃなくて…………これから委員会。」


黒尾「は???「委員__________ハハ、冗談はよせ研磨、お前が委員会なんて……まさかお前、担任タカセン?」






頷くと、「まじかぁ、」と呟き頷いた。


クロは確か、去年あの人のクラスだったはず。



くじ引きは恒例なのかもしれない。






黒尾「何委員?」


孤爪「……図書。」


黒尾「ブッ、」


孤爪「……なんで笑うの。」


黒尾「だってお前、体育委員とかだったら話のネタになるのに図書って……図書って……っ!ブックク、腹痛ぇ!」


孤爪「……とにかく遅れるから。」


黒尾「あ、そういや相方誰なんだ?結構重要じゃね?」


孤爪「……クロ、知らない人だから。」


黒尾「そんなん言ってみねぇと分からんでしょうが〜。言ってみ?ホラホラ!」


孤爪「………………転校生だよ。」






苗字はうろ覚えだったから、クロが知らないであろう理由を述べた。


ただ逆効果だったみたいで、クロは買ってきた新しいゲームを開ける時みたいに目をキラキラとさせて、「どれ!?」と教室内を覗きに行く。






孤爪「ちょっと、待っt___________、」







ドカッ、








黒尾「っと……!」







早足で教室を覗きに行ったクロは、丁度そこから出てこようとしていた転校生にぶつかった。



軽い接触だったようで、それはいつものクロ目当てでぶつかってくる女の子達とのそれによく似ていて。





だからクロも多分、そう思ったんだと思う。









黒尾「ぅわ、ごめんね大丈夫?」


あなた「…………。」


黒尾「ん……、平気?」


あなた「っ、」





黙り込む彼女の顔を覗き込むように屈むと、同時に廊下からも教室からも黄色い悲鳴が生まれた。


彼女を羨ましがる生徒も、妬む生徒の声も聞こえてきた。






あなた「………………」





ペコりと頭を下げると、何も言葉を発する事なく前の扉へと向かい、そこから廊下に出た。






黒尾「……ありゃ。」






いつもと違う女の子の反応に多少戸惑いつつも、「んで、どれ?」と切り替えるクロ。







孤爪「…………今の子だよ。」


黒尾「…………今って……っえ、マジ????」








前の扉から出てきた彼女は、図書室に向かうため俺がいる方へと歩いてきた。


視線が交わり、瞬間"一緒に行った方がいいのか"とか"何か声をかけるべきか"とか、普段の俺なら絶対に至らない思考が生まれた。






あなた「…………、」


孤爪「…………!」








目が合って、すぐに彼女は俺から視線をそらす。



何かに怯えているような、恐れているような、そんな表情。




視線を斜め下に落としたまま、早足で図書室の方へと向かっていった。







黒尾「今の子かぁ〜。道理で。」


孤爪「……あの子が赤面しなかったのは、転校生だからじゃないと思う。」


黒尾「ほう、?」






まるで自分に照れない女の子の存在を認めたくないかのように自己解決しかけたクロ。



でも、多分……彼女は転校生だからクロになびかなかった訳ではなくて。







あなた『…………、』








あの目、そらし方、表情……。






"あ、この子俺と一緒だ"って、思わずにはいられなかった。












孤爪「多分あの子、重度の男嫌いだよ。今日1日話しかけてきた男子にもあんな態度だったし。」


黒尾「人見知りなんじゃねぇの?」


孤爪「女子とは普通に……っていうか、楽しそうに話してた。男子に嫌悪感を抱いてるって感じ。」


黒尾「……よく見てるんだな?」


孤爪「……別に、俺の前の席だから。」






ニヤニヤと顔を覗き込んでくるのでそらしてから、時間が差し迫っている事に気が付いた。








孤爪「じゃあ、先行ってて。」


黒尾「あー、研磨ぁ。」


孤爪「…………何、」







クロは歩いていったあの子の小さくなった背中を目で追って、「あの子さ、」と口を開く。







黒尾「お前と似たようなもんだろ?上手いこと懐柔して付き合っちゃえば?」


孤爪「……何言い出してんの。流石に引く。」


黒尾「そうじゃなくて、!」







露骨に嫌な顔をして見せると、ブンブン首を振って訂正をする。








黒尾「お前ならあの子の気持ちも汲み取れるんじゃねぇのって事。この学校じゃ、現状1番の"理解者"になり得るのはお前なんじゃない?」


孤爪「……聞いてなかった?あの子男嫌い___________」


黒尾「女の子はな、」


孤爪「話聞いてる?」


黒尾「弱ってるところに優しくされると惚れちゃうもんなの。」




話聞いてない。


クロは最後に「報告待ってるねぇ〜。」と口角を意地悪く上げて、体育館の方に向かった。















孤爪「………………"理解者"……?

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