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「次、反復横跳びまだ計ってない奴は並べ〜!」
体育教師の声は体育館によく響く。
主にネットで挟まれた向こう側に釘付けの女の子たちに向けられたもの。
「無理……カッコ良すぎるぅ……!」
「奇数組って最高だよね、1組も5組もいるし!」
奇数組。
体力測定は学年混合で行われていて、この時間は奇数クラス。
つまり私のいる3組や、皆のお目当てである赤司先輩のいる1組が含まれている。
ちょうど立ち幅跳びを計測しているようで、視線の中心に立つ赤司先輩はやっぱり目立っている。
エミリ「ね、あなた連れてったら話せるかな。」
あなた「な"っ、何言ってんの!」
ちょっとお世話になった事があるだけで、大体赤司先輩からしたら私なんて数多くの女の子のうちの1人。
それに、こんなに人目につくところで話したりなんかしたらどう思われるか……。
エミリ「見に行ってくる!!」
ユウヒ「あなた行こう!!」
あなた「待ってるから、」
グイグイ引っ張られるのを断って、出入り口近くに腰を下ろした。
えっと、後計測は握力と________、
体育祭に握力ってどう関係してるんだろう。
「ん?なんだ孤爪、ペア組んでないのか?」
あなた「?」
反復横跳びの方から聞こえてきた先生の声。
隣に立つ孤爪くんは決まり悪そうに視線を落としていて、回数を数えるペアがいないんだとすぐに分かった。
行くべきなのかな……?
でも、私が行って迷惑じゃないかな。
もうマネージャーも辞めてる訳だし、余計なお世話だよね、きっと……。
「誰か計測終わってる奴引っ張ってこれないのか?」
孤爪「…………。」
あなた「っあ、北島先生……!」
「ん?…………お、花野井さん。どうかしたか?君なかなか運動神経________、」
あなた「わ、私で良かったら数えます、孤爪くんの回数……!」
孤爪「……、」
体育の授業で何かと声をかけてくる先生だったので私のことは知ってくれていて、孤爪くんの記録用紙を受け取った。
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あなた「ご、ごめんね……余計なお世話だったかな、」
孤爪「……ううん。あのままだと目立ってたから。」
記入した用紙を返して、少し沈黙。
気まずい……。
あなた「じゃ、じゃあ________、」
?「お、研磨ぁ!」
定位置に戻ろうかと離れようとしたところに、丁度体育館に入ってきた2人組に周囲が騒つく。
部活ぶりに見る黒尾先輩と、夜久先輩だった。
黒尾「計測終わったん?」
孤爪「まだ3つ目……。クロは?」
黒尾「俺あと握力だけ〜。……っと、花野井さんも一緒か。仲良いな。」
あなた「おっ、……お疲れ様です、」
驚いた。
マネージャーではなくなった私にも、こうして声をかけてくれるなんて。
……ただ、
「待って向こうには赤司先輩こっちには黒尾先輩!?どっち見ればいいの!?」
「赤司先輩に決まってるでしょ黒尾先輩彼女持ちだし!」
「そこがまたいいんじゃない!」
この人も目立つんだよね……。
確かに、身長高くて顔も整ってて、モテるって感じで……。
あなた「________、」
夜久「……?」
隣の夜久先輩と目があって、自然と逸らした。
ただ、根っから人懐こい人だから……、
夜久「花野井さん次何?」
あなた「っえ、……と、握力行こうかなと、」
夜久「一緒じゃん!皆で行こうぜ〜。」
「なっ!」と、隣の黒尾先輩に笑いかける。
黒尾先輩はと言うと、何かを気にするように周囲に目をやった後、「そうだな。」と微笑んだ。
孤爪くんも握力測定はまだのようだったので、4人で肋木近くの測定所に向かった。
……あれ、結局目立ってない、?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!