第2話

必要ない
21,226
2021/03/25 12:00
あなた 𝓈𝒾𝒹𝑒.°



2012年 4月




遅咲きの桜は満開で、天の青とのコントラストに目が眩む。


ひらひらと舞い散る桜の花びらは、この春新生活に踏み出した私を祝福しているかのようで……そしてまるで、


この春を迎えられなかった私のことを、嘲笑っているかのようで。



真新しい制服の肩にひらりと乗った花びらを、乱暴に地面に振り落とした。






「花野井さん、こっちよ。」




1週間前に訪れた新しい高校。


今日は両親が付いている訳でもないから、職員室を探すのに一苦労した。



ようやく着いたところで奥と手前のどちらが入り口か彷徨っていると、向こうの渡り廊下から小走りで駆け寄ってきた女性教師。





「ごめんなさいね。クラス分け掲示しに行ってて……。待たせちゃった?」


あなた「いえ、今着いたばかりです。」


「えぇと、それじゃあ前お願いしてた書類持ってきてる?」


あなた「はい。」





真新しい学生鞄。


クリアファイルの中から書類を3枚取り出して、手渡した。





「……よし、完璧ね。40分から朝のH Rだから、担任の先生と教室に行って欲しいの。」


あなた「……?先生は担任の先生じゃないんですか?」


「えぇ、私は学年主任なの。貴女は3組だから、えっと……あ、高木先生〜っ。花野井さんです。」






同じ机の列の奥側に座ってパソコンを使っていた男性教師が、ニコりと微笑んで立ち上がった。







高木「高木です。転校初日は緊張すると思うけど、今日クラス替えしたばかりだからすぐに馴染めると思うよ。」


あなた「……よろしくお願いします。」





頭を下げてから、少し早めに教室へと上がった。














高木「花野井さんは、何か部活やってた?」


あなた「…………まぁ、」


高木「そうかぁ……俺野球部の顧問だから、マネージャー募集中だよ?」


あなた「……はぁ、」


高木「そういえば編入試験、点数凄かったんだって?うちの部の生徒にも見習わせたいよ〜。」


あなた「……そうですか、」


高木「花野井さん、緊張してる?」


あなた「……いや、別に、」





いつまで話してるんだろうこの人。


態度からして、"無愛想な生徒だな"で片付けて仕舞えば良いのに。



こういう先生は、苦手だ。






高木「それにしては________、」


?「お〜タカセン!!春課題古典だけ忘れちった〜。」







向こうから歩いてきた黒髪の男子生徒。


片手を上げながら軽く謝ると、「んじゃそゆことで!」と小走りに去っていく。





高木「コラ黒尾!!お前今年は進路もあるんだぞ!」






野太い声でそう怒鳴ると、彼は「わざとじゃないで〜す。」と平謝り。



東京は先生をあだ名で呼ぶのか。







高木「ったく……。アレで女子にモテるのが癪だなアイツは……。っと、教室入ったら自己紹介してもらうんだけど、自分で名前言う?」


あなた「……どっちでも、」


高木「じゃあ……まぁ、俺が言うわ。」






多分、私が大勢の前でこういう風に無愛想な態度を取ったらクラスに馴染みにくくなると思ったんだろう。


申し訳ないけど、それは正直ありがたい。



"転校"だなんて、目立ってしまう1番の要因だけど。





絶対に目立ちたくない。




いつか空気として、この学校の数ある1人になれれば、それでいい。









青春も、恋愛も。





になるのを避けられるのなら、必要ない。

プリ小説オーディオドラマ